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トップクォークの物理

トップの物理は $300 \sim 500$ GeV における JLC に約束されたものである。 最近の Tevatron におけるトップの発見は、 その精密測定のための ファクトリーとしての $300 \sim 500$ GeV の 電子・陽電子リニアコライダーの必要性をますます高めたと言える。

ここではトップ質量の測定の問題から始める。 測定方法には、しきい値領域のトップクォーク対生成断面積の測定によるものと、 ジェットの不変質量分布によるものとがある。 前者については、重いトップは崩壊幅が大きく、 これが赤外カットオフとして作用するため、 しきい値領域全体にわたって断面積を第一原理(QCD)から計算できることが 重要な点である。 図-26a は、 断面積をエネルギースキャンで測定する場合の例である。 1点 $1 {\rm fb}^{-1}$で 11 点の測定を行なう。 そしてトップ質量と強い相互作用の結合定数($\alpha_S$)を フリーパラメータとしてフィットすると、 図-26b のような結果が得られる。

 
Figure 26:  しきい値スキャンの例
\begin{figure}
\centerline{

\epsfig {file=panf/top/mtalfs.eps,width=6cm}
}\end{figure}

$\alpha_S$ を知らないとしても、 0.5 GeV の精度でトップの質量が決まることがわかる。 一方、3ジェットの不変質量分布を使うと(図-11)、 統計誤差としては 0.1 GeV 以下の測定が容易に実現できる。 逆にこのトップ質量の制限を付けると、しきい値領域の断面積測定から $\alpha_S$$\Delta \alpha_S = 0.005$ の精度で決定できる。 しきい値スキャンを、これまたトップクォークで初めて可能となる 共鳴状態中でのトップクォークの運動量分布の測定と組み合わせれば、 $\Delta \alpha_S \hbox{ \raise3pt\hbox to 0pt{$<$}\raise-3pt\hbox{$\sim$} }0.002$ も不可能ではない。 $\alpha_S$ 測定の価値は、GUT スケールの情報を提供するので、 むしろ超対称性の場合の方が大きい。 この場合にはトップ質量の精密測定の意義もさらに大きなる。 トップ質量は湯川結合と直接関係しているので、 超対称性粒子やヒッグス粒子の質量や崩壊幅を計算する際の 不可欠のパラメータである。

トップクォークが他の物質粒子に比べて圧倒的に大きな質量を持つことは、 トップクォークが物質粒子の質量生成の鍵を握る粒子であることを 示唆している。 また、超対称性の場合には、トップクォークと軽いヒッグス粒子の 湯川結合は、超対称性のパラメータに強く依存している。 その意味で、トップクォークの湯川結合の測定は極めて重要である。 トップの湯川結合は、しきい値領域のトップ対生成断面積の測定、 あるいはトップ対に付随してヒッグスが生成される反応を 調べることにより測定できる。 この際の湯川結合の決定精度は、 いずれも $10 {\rm fb}^{-1}$ の統計で 10% 程度である。

この他にも、トップクォークの超対称性粒子への崩壊の探索、 終状態ジェットの角分布解析によるトップ対の生成および崩壊バーテックスの研究等、 豊かな物理がある。 特に角分布解析は、トップの崩壊幅が大きくトップハドロンが生成されない という今までのクォークになかった全く新しい状況によってのみ可能となる。


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Keisuke Fujii
5/2/2000