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標準理論

既に述べたように、20世紀の高エネルギー物理学発展の歴史は、 標準理論へと収斂する過程で、自然の語る物語の テーマの中心がゲージ対称性であるらしいことを明らかにした。 ここで手にしたゲージ対称性は、  
 \begin{displaymath}
\mbox{標準理論のゲージ群} = SU(3)_C \otimes SU(2)_L \otimes U(1)_Y\end{displaymath} (41)
である。 SU(3)C は強い相互作用のゲージ対称性(破れていない)、 $SU(2)_L \otimes U(1)_Y$は電磁相互作用と弱い相互作用をまとめた電弱相互作用のゲージ対称性 (自発的に破れている)である。

問題は「我々が探求すべき次の対称性は何なのか?」である。 最近の主に LEP で蓄積されてきた精密な実験データが、 この疑問に対する答えを示唆している。 この観点から現在の実験データを分析すると、 その状況は標準理論前夜と著しく似ている。 標準理論前夜、我々の手元にあったのはフェルミの4点相互作用の理論であった。 この理論は、300 GeV 近辺でユニタリティーを破ることが知られていた。 この困難を回避するため、ウィークボソン WZ が導入された。 しかし、一般に質量を持ったべクターボソンの理論はくりこみ不能であり、 困難は完全には解決されていない。 ベクターボソン同士の散乱で、再びユニタリティーの破れが確実に予測されるのである。 この問題を解決するために、ゲージ対称性とその自発的破れを骨子とする 標準理論が提唱された(標準理論では WZ をゲージボソンとする。 ゲージボソンは、ラグランジアンレベルでは、 質量を持たずくりこみ可能である。 そこで、ヒッグス場によって自発的に破れた ゲージ対称性が高エネルギーで回復するとユニタリティーの問題は なくなる)。

もちろん WZ の発見以前には、標準理論は一理論であった。 ウィークボソンの発見および標準理論の検証に焦点を合わせ、 新たに加速器および実験計画が本格的に提案されたのは、 中性カレントの実験と SLAC の有名な eD 実験が、ワインバーグ角 (電磁相互作用と弱い相互作用の混ざり方を規定する角度)に対し、誤 差の範囲で一致する数値を与えた頃からである。その後、SppS、Tevatron ($p\bar{p}$) 計画および TRISTAN、LEP、SLC (e+e-) 計画が遂行され、 標準理論に対する確固とした基礎が築き上げられた。


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Keisuke Fujii
5/2/2000