next up previous
Next: 軽いヒッグスが無かった場合 Up: 超対称性理論のシナリオ Previous: ヒッグス粒子探索

超対称性粒子探索

超対称性理論の予言どうり軽いヒッグスが発見され、 ヒッグスセクターのノンミニマリティ(標準理論からのずれ)が確立されたとしても、 この理論を最終的に検証するためには, 超対称性粒子を発見しなければならない。

図-17a は、最も軽いチャージーノの質量が 理論のパラメータによりどう変化するかを示している。 図-17b はスレプトンとスクォークに対する同様な図である。

 
Figure 17:  超粒子の質量の等高線:(a) チャージーノ、(b)スレプトンとスクォーク
\begin{figure}
\centerline{

\epsfig {file=panf/susy/msusy_a.eps,width=6cm}
}
\centerline{

\epsfig {file=panf/susy/msusy_b.eps,width=6cm}
}\end{figure}

スクォーク、グルイーノといった強い相互作用をする超対称粒子の質量が、 スレプトンやチャージーノ等の強い相互作用をしない粒子より軽い点に注目したい。 強い相互作用をしない超対称粒子はハドロンコライダーでは、 発見が困難である。 一方、電子・陽電子反応では、 これらの粒子の対生成はしきい値ぎりぎりまで探索可能であり、 重心系エネルギー1 TeV のリニアコライダーは、 LHC 等のハドロンコライダーをしのぎ、 重心系エネルギー 500 GeV での JLC の初期実験でも、 LHC では探索不可能な部分を相補的に探索できることが分かる。 ひとたび、超対称粒子が発見されれば、後は リニアコライダーの 独壇場である。

i) 超対称粒子の研究

超対称粒子は通常の粒子と最も軽い超対称粒子(LSP)に崩壊する (通常最も軽いニュートラリーノ $\tilde{\chi}^0_1$ が LSP だと考えられている)。 この LSP は安定で物質とほとんど相互作用をしないため、 検出されない。 そこで、超対称粒子生成のシグナルは終状態に運動量欠損のある 折れ曲がった事象となる(図-18)。

 
Figure 18:  超対称粒子生成事象の典型的な形
\begin{figure}
\centerline{

\epsfig {file=panf/susy/susyev.eps,width=4cm}
}\end{figure}

そこで、超対称粒子探索のバックグラウンドとなるのは、 LSP と同様検出されないニュートリノを出す標準理論の反応である。 ここで威力を発揮するのが偏極電子ビームという 電子・陽電子リニアコライダーならではの強力な武器である。 図-19 は、ミュー粒子の超対称の相棒である スカラーミューオンの対生成のアコプラナリティー角の分布を、 無偏極の電子ビームの場合(a)と偏極が +0.95 の場合(b)について示している。
 
Figure 19:  スカラーミューオン対生成のアコプラナリティー角の分布: (a) 無偏極の電子ビームの場合、(b) 偏極が +0.95 の場合
\begin{figure}
\centerline{

\epsfig {file=panf/susy/acopsmu.eps,width=8cm}
}\end{figure}

破線は W対生成のバックグラウンド、実線がシグナルである。 W 対生成は、SU(2)L のゲージボソンの関与する反応であるため、 WZ の質量が無視できるようになる JLC のエネルギー領域では 対称性が回復し始め、 左巻き電子しか反応に関与できなくなる。 そのため右偏極の偏極ビームの使用で、バックグラウンドが大幅に落る。 一方、シグナルは、右巻き電子により強く結合するので ほぼ倍増することが分かる。 つまり、2重に得するのである。 アコプラナリティー角を 30 度でカットすれば、 バックグラウンドはほぼ完全になくなる。

このサンプルを用いて超対称粒子の質量の精密測定が出来る。 測るべき量は、スカラーミューオンの崩壊から来る ミュー粒子のエネルギー分布である(図-20a)。 この分布の上端と下端は、2体崩壊なので、 親であるスカラーミューオンの質量と崩壊で生じる LSP の質量で決まる。

 
Figure 20:  (a) スカラーミューオンの崩壊で生じたミュー粒子の エネルギー分布、(b) フィットで決まる超粒子の質量
\begin{figure}
\centerline{

\epsfig {file=panf/susy/esmu_a.eps,width=6cm}
}
\centerline{

\epsfig {file=panf/susy/esmu_b.eps,width=6cm}
}\end{figure}

そこで、このエネルギー分布を スカラーミューオンの質量と LSP の質量をパラメータとしてフィットすると、 図-20b のようにスカラーミューオンと LSP($\tilde{\chi}^0_1$)の質量が 1% の精度で決まる。

ii) プランクスケールの物理への展望

超対称性の破れ(通常粒子と対応する超粒子の質量差)は、 超対称性を破る超高エネルギーの物理で決まっていると期待される。 例えば、スカラー電子とスカラーミューオンの質量は、 超重力による超対称性の破れのシナリオでは、等しくなる。 そこで、これらの質量が測定されれば、プランクスケールに近い 超高エネルギーの物理のテストが出来ることになる (図-21)。

 
Figure 21:  普遍スカラー質量の仮定の検証
\begin{figure}
\centerline{

\epsfig {file=panf/susy/msmumse.eps,width=6cm}
}\end{figure}

このように、ひとたび JLC で超対称性が発見されれば、 大統一、超重力といった超高エネルギーの物理を 調べる初めての現実的可能性が開けることになる。 JLC-I によるわずか 数 100 GeV のステップが プランクスケールに迫る巨大なステップとなりうるわけである。 これは、恐るべき可能性である。


next up previous
Next: 軽いヒッグスが無かった場合 Up: 超対称性理論のシナリオ Previous: ヒッグス粒子探索
Keisuke Fujii
5/2/2000