電子・陽電子衝突型加速器と陽子・陽子衝突型加速器


陽子・陽子衝突型リング加速器

:高いエネルギーを実現しやすい加速器であり、際立った新現象の発見に適している。

陽子は質量が大きいために放射光損失が少なく、リング加速器でも電子よりずっと高いエネルギーまで加速することができる。従って、ヨーロッパではLHCといわれる10TeVを越す陽子・陽子衝突型加速器の計画が進められている。
陽子・陽子衝突方式は、特別にはっきりとした信号を持つ新現象を他に先駆けて調べることを得意とする。色々な反応が起こり得るが、強い力で起きる複合粒子同士の散乱であるため、新しい物理の信号に対する雑音のレベルが極めて高く、また構成要素であるクォークやグルーオンの衝突エネルギーが制御されないという難しさが伴う。しかし、CERNでのZやWボソンの発見は、利点を生かした良い例である。

電子・陽電子衝突型リング加速器

:非常に高いエネルギーを実現することはできないが、重要な現象を精密に定量化することにより、基本原理に迫るというタイプの実験に最適である。

一方、電子・陽電子衝突においては、基本粒子衝突エネルギーが良く制御されている上、衝突する2つのビームの全エネルギーに至るすべての現象が基本的には検出可能である。なぜなら、電子・陽電子散乱は基本粒子どうしの電弱相互作用によるため、陽子・陽子散乱に比べ雑音のレベルがはるかに低いし、またほとんどの基本粒子ペアーを同程度の確立で生成できるからである。
しかしながら、トリスタンやLEPのようなリング加速器では、曲線部で放出する放射光として失うエネルギーが膨大となって、LHCと同等のエネルギーを実現することは不可能である。

電子・陽電子リニアコライダー

:基本粒子反応に費やされる有効エネルギーを陽子・陽子衝突型加速器と同程度にできる上、新現象の探索においては最も明快で、しかも内容をくわしく吟味できる理想的加速器である。

リニアコライダーは電子用線形加速器と陽電子線形加速器を対向させた新方式の衝突型加速器である。その方式ではダンピングリング以降に曲線部がないため、放射光によるエネルギー損失に制限されず、電子と陽電子を非常に高いエネルギーまで加速できる。
従ってJLCでは、色々なタイプの新現象探索に明快な答を与えることができ、またその内容をくわしく吟味し、特定することができる。
さらに偏極ビームを使って、反応の種類を制御することができる。
ちなみに、電子・陽電子衝突ではビームのエネルギーが有効に衝突エネルギーとして使われるのに対して、陽子・陽子衝突では、平均としてビームのエネルギーの10分の1程度が素過程の衝突に使われる。従って、1TeVの電子・陽電子リニアコライダーは、10TeVの陽子・陽子衝突型リング加速器とエネルギー的にはほぼ同等である。

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webmaster@www-jlc.kek.jp Feb 09, 1995