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ヒッグス粒子探索

超対称性の理論では、最低2つのヒッグス2重項 (複素なので自由度は合計8)が必要である。 従って、WZ の縦波成分として使われる3自由度を除き、 自発的対称性の破れの後に5つの自由度が残る。 これらがスカラーヒッグス h および H、擬スカラーヒッグス A、 そして荷電ヒッグス H+ およびH- である。

既に述べたように、 これらのうち、軽いスカラーヒッグス h は最低次では MZ 以下になり、 新たに重要になったトップのループ補正を入れても150 GeV を越えない。 軽いヒッグスの存在は、超対称性理論の極めて一般的な帰結であり、 ヒッグス多重項を拡張しても変わらない。 もちろん標準理論でも、それが GUT スケールまで適用できるとすると、 トリビアリティーの議論($\lambda$ が GUT スケールまで発散しないと言う要求)から、 250 GeV 以下にヒッグスが存在しなければならない。

そこで JLC の第1の使命は、軽いヒッグス h を発見することである。 そして、それに続く他のヒッグス粒子を探索し、 ヒッグスセクターの構造を明かにすることである。 超対称性理論の予言するヒッグス粒子は、 LHC 等のハドロンコライダーで見つけるのは困難であり、 超対称性理論のパラメータ領域によっては不可能であることが報告されている。 それは、擬スカラーヒッグスや荷電ヒッグスが、 直接にはベクターボソン対に結合しないこと、 また重いスカラーヒッグス H の場合でも、 パラメータ領域の多くの部分でベクターボソン対への結合が極めて弱くなるため、 最もきれいなシグナルである4レプトンモードへの分岐比が 大きく減少するためである。 軽いスカラーヒッグスについても、2光子モードへの分岐比が小さくなるため、 標準理論の場合よりさらに難しくなる。 もし発見されたとしても、その性質の詳細な研究は困難である。

一方、電子・陽電子コライダーでは、終状態に余分な粒子がないために、 いろいろな基本粒子を、最も分岐比の大きいジェットモードで 検出できるため、精密実験に最適である(図-11)。

 
Figure 11:  ジェットモードでの基本粒子の検出
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\epsfig {file=panf/Jet-WZ.eps,width=5.5cm}
}
\vspac...
 ...0.5cm}
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\epsfig {file=panf/Jet-Higgs.eps,width=5.5cm}
}\end{figure}

超対称性理論が極めて有力になってきた現在、 この最も重要な領域の解明を可能にする e+e- 加速器が是非必要である。

JLC における $300 \sim 500$ GeV での実験は、以下に示すように、 全てのパラメータ領域における軽いスカラーヒッグスの発見と 詳細な研究を可能とする。

i) ヒッグス粒子の探索

スカラーヒッグスの探索方法としてまず考えられるのは、 主要な崩壊モードであるb-ジェット対終状態を 不変質量分布のピークとして捕えることである(図-11a)。

この場合、同時に生成されるZの崩壊モードによって独立な3つの探索が可能である。 図-12a はZがニュートリノ対に崩壊した場合で、 積分ルミノシティー $4 {\rm fb}^{-1}$ に対応している。

 
Figure 12:  ヒッグス粒子に対応するジェット対の不変質量分布($4 {\rm fb}^{-1}$): (a) $Z \rightarrow \nu \bar{\nu}$、 (b) $Z \rightarrow l^+ l^-$、 (c) $Z \rightarrow q \bar{q}$
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\centerline{

\epsfig {file=panf/higgs/mhiggs.eps,width=6cm}
}\end{figure}

これは、現在の JLC の設計値では僅か 10 日である。 主要なバックグラウンドである ZZ 反応は、 b-クォークをバーテックス検出器で同定することにより十分落とすことができる。 Zが電子あるいはミュー粒子対に崩壊する場合も明瞭である (図-12b )。 分岐比の点から最も有利なのは、 Z がクォーク対に崩壊する場合である(図-12c)。 この場合は WW もバックグラウンドとなるが、b-クォークの同定に加え、 1つのジェット対の不変質量が Z の質量と合うことを要求すると、 落とすことができる。

上記3つの場合に対するヒッグス候補の不変質量分布は、 1年間で、図-13a、 b、c のようになる。

 
Figure 13:  ヒッグス粒子に対応するジェット対の不変質量分布($30 {\rm fb}^{-1}$): (a) $Z \rightarrow \nu \bar{\nu}$、 (b) $Z \rightarrow l^+ l^-$、 (c) $Z \rightarrow q \bar{q}$
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\centerline{

\epsfig {file=panf/higgs/mhiggs30.eps,width=6cm}
}\end{figure}

こうなればもはや疑いようがない。

さらに JLC では、高性能の測定器により、ヒッグス粒子の詳細な研究が可能となる。 ヒッグス粒子のスピンを測ることも容易である。 発見されたヒッグス粒子の質量を正確に決定するには、 Z が電子あるいはミュー粒子対に崩壊するモードを使い、 これらの運動量を正確に測定して、 残りの部分の質量分布を求めればよい(図-14)。

 
Figure 14:  Z からのレプトン対に対する反跳質量分布
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\centerline{

\epsfig {file=panf/higgs/mrecoil.eps,width=6cm}
}\end{figure}

もちろんこの場合には、ルミノシティーは若干犠牲にして、 ビームエネルギーの幅を小さくする必要がある。 $10 {\rm fb}^{-1}$ のデータでヒッグスの質量を 20 MeV の 精度で決定し、また、その全崩壊幅を 200 MeV 以下まで押さえることができる。

ii) 標準理論をこえるヒッグス粒子の探索

超対称性のシナリオでは、 軽いヒッグス h の性質が標準ヒッグスと大きく異なる場合には、 H も比較的軽く、 2つのスカラーヒッグス hH を同時に発見できる (図-15)。

 
Figure 15:  ヒッグス粒子に対応するジェット対の不変質量分布: 複数のヒッグス粒子が見える場合
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\centerline{

\epsfig {file=panf/higgs/motherhiggs.eps,width=6cm}
}\end{figure}

この時点で我々は、標準理論をこえる確固とした実験的証拠をつかんだことになる。 この場合には、擬スカラーヒッグスも荷電ヒッグスも比較的軽く、 HAH+H- 終状態で発見できる。 探索には、4-ジェットモードを使えばよい ((i)の Z がジェット対に崩壊する場合と同様)。

h 以外のヒッグス生成のしきい値を越えられなかった場合を考えよう。 この場合は、hの生成断面積および崩壊分岐比の、 標準理論からのわずかなずれを検出しなくてはならない。 図-16 は、 hZ の生成断面積に b-クォーク対への分岐比をかけたもの (実際に検出されるヒッグス粒子の数に比例する)の測定から 得られる $\tan \beta$mA の平面上での制限を 示している(約 $100 {\rm fb}^{-1}$ の統計)。

 
Figure 16:  MA-$\tan \beta$ 平面での制限。
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\epsfig {file=panf/higgs/matanb.eps,width=7cm}
}\end{figure}


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Keisuke Fujii
5/2/2000