第9回リニアコライダー計画推進委員会議事要録(案)

日時:平成18年12月21日(木曜日) 13:30 〜17:40
場所:4号館1階セミナーホール
出席者:高崎、下村、神谷、平山、横谷、野崎、黒川、山内、岡田、田内、生出、榎本、加藤、駒宮、木村、浦川、久保、早野、斉藤、峠、栗木、佐藤、山下、佐貫、尾崎 各委員、鈴木機構長
(欠席者:山本、上野 各委員)
オブザーバー 8 名

議題

  1. 全体報告(スケジュール、R&D進捗状況等):横谷委員長
  2. ILCSC報告:黒川委員
  3. FALC報告:山内委員
  4. 機構長報告:鈴木機構長
  5. ワーキンググループ報告(1):ATF/ATF2の状況:照沼
  6. ワーキンググループ報告(2):ILC SC-RFの状況:早野委員
  7. WWS報告:山本委員
  8. RDR以降の動きに関する意見交換:議論

配付資料


1. 全体報告(スケジュール、R&D進捗状況等)

横谷委員長から、以下の報告があった。
先ず、GDE(Global Design Effort)組織構成は以下のようである。Barry BarishをDirectorとし、彼を含め、regional directors (3人)と加速器リーダー(3人)の7人よりなるEC(Executive Committee)により運営されている。日本からECには、Asian GDE directorの野崎氏、Asian 加速器リーダーの横谷氏がメンバーである。ILC全体のコスト評価を取りまとめるため、各regionからそれぞれ1名のコスト専門家3人で構成されるCE(Cost Experts)がある。このCEメンバーとBarryのみがコスト評価の細部まで知ることができる。設楽氏がアジア地域のCEメンバーである。ILC全体の施設の仕様およびそのILCサンプルサイトにおける適用上の課題を検討するCFS(Conventional Facility and Site)グループがあり、榎本氏がメンバーとなっている。また、RDR完成まで、その編集管理・運営を行うRDRMB(RDR Management Board, DESYのN.Walkerが議長)が11名により構成されている。RDRMBにより毎週、コストと設計の検討電話会議が行われている。

コストおよび設計の全般を検討するグループとして、DCB (Design and Cost Board ) があり、榎本氏、設楽氏、照沼氏がメンバーとなっている。また、RDRのコスト評価対象のILCデザイン・レイアウト文書であるBCD (Baseline Configuration Document)の更新・変更を管理するCCB ( Change Control Board )、そして、加速器R&Dの調整を行うRDB(R&D Board) がある。CCBでは峠氏が議長、久保氏、栗木氏がメンバーである。CCBは、ILC設計上の諸問題をGDE全体で議論されることに大きく貢献している。RDBでは早野氏、肥後氏がメンバーで、これまで、約500に上るR&D項目を4段階の優先順位付けを行った。また、RDBは各regionからの要請に応えて、それぞれのregionでのR&D項目のreviewも行っている。アメリカでは2006年4月より7月、イギリスでは9月より11月にわたり行われ、KEKでも12月19-20日にその第一回会議を開催した。12月のKEK会議では約70のWork packageにまとめられた平成19年度R&D項目のreviewを行った。優先順位、方針全体への意見をとりまとめたRDB答申は、来年1月に得られる予定である。

RDBには、詳細な検討を行うために、S0~S5の6つのタスクフォース(特別作業部隊)が設けられている。S0は加速勾配を達成するためのプログラム作成が検討作業項目である。その目標は35MV/mの縦測定加速勾配の達成方法の検討であるが、現在、全製作数の20%以下しか35MV/mを満たしていない空洞の歩留まりを2009年中旬までに80%以上にしなければならない。S1はcryo-module(8台の9セル超伝導空洞を収める冷却装置)の性能(通常運転時の加速勾配31.5MV/m)保証が検討作業項目である。S2は幾つかのcryo-moduleよりなるstring testの規模とスケジュールが検討作業項目となっている。string testには100億円のオーダーの予算が必要かもしれない。年内には答申草案がでる。早野氏と峠氏がこのS2のメンバーである。S3の検討項目はダンピングリング(DR)で浦川氏がメンバーとなり、S4はBDS(Beam Delivery System)で早野氏がメンバー、S5は陽電子源で栗木氏がメンバーとなっている。 さらに、RDRマトリックスと呼ばれる、エリアシステム,グローバルグループとテクニカルシステムの作業グループがある(詳細組織メンバー表)。

今夏、バンクーバーで行われたGDE会議で最初のコスト評価がBarryとCE(Cost Experts)内で行われた。それは高すぎるということで、これより30%のコスト削減をしなければならないことがBarryより表明された。ECは、20%は加速器の設計で行い、残りの10%はエネルギーやルミノシティーの削減などによることを目標とした。この会議以降の主なILC設計上の変更点は以下のようである。(1)入射システムも含み、DRを衝突点周りの中心部分に配置換えを行った。これにより、DR用トンネル数を1つに半減した。また、陽電子用のDRの数も電子用と同じ1つとした。ただし、必要なときに陽電子用のDRを一つ追加出来る空間等を確保するものとなっている。RFシステムはリングの2カ所に設置される。(2)衝突点に関しては、2mrと20mrの2つの交叉角度を2つとも同じの14mrと変更した。2mrの場合の取り出しビームラインの建設コストと消費電力が高すぎることがこの理由である。(3)ビームコリメーションで生成され衝突点に到達するミュー粒子を遮蔽するミューオン壁を5m厚の一つのみにした。ただし、将来、必要なときに、追加可能なようにトンネル内の空間などが確保されていることが条件となっている。(4)測定器の多くの部分を地表で組み立てることにした。これはコスト削減より、建設期間短縮のための変更である。(5)2つの主リニアック用のトンネルの内径を5mより4.5mにした。連結用のトンネルは500mごとに設置する。(6)DRの中心部分変更に伴ったビームラインの変更、垂直シャフトの最少化などが行われた。

11月にValenciaで開催されたGDE会議ではVancouver時に比較して28%の削減可能性を追求していく試案がCost Expertsを代表して設楽氏により示された。ライナックのエネルギー確保のためのオーバーヘッド削減、クライストロン一台で運転する空洞数を増大するなどのコスト低減策については、CCBは非採択を勧告したが、パラメータ選定に再検討を加えた新たな提案が行われつつある。push-pullによる2つの測定器で1 BDS/IRとすることも提案され、CCBで12月21日現在審議中である。これらの設計変更が最終的に採択される、という仮前提のもとのコスト再計算が行われ、12月14-16日にSLACでGDEが開催したコスト評価会議で審議された。これには、review委員として吉岡氏と山本明氏が参加した。

今後の予定:1月10-12日、DareburyのCockcroft lab.でILCSCによるMAC (Machine Advisory Committee)の開催、1月12日ILCSC開催、1月22日ヒースロー空港でFALCに対するブリーフィング開催、2月4-7日北京のIHEPでGDE meetingとACFA-LC workshopの共同開催、このIHEP会議でRDRの最終ドラフト完成し、2月8日に記者会見が行われる予定。さらに、RDRコスト評価はILCSC/FALCにより春頃reviewが行われ、夏には完成し印刷物として配布される。

RDR以後のGDE活動について、ECでも議論が行われている。そこでは基本的に同じ組織形態で活動を続けることが検討されているが、R&Dの調整も含めたProject managerの新ポストを設けることも提案されている。新GDEを監督する上部組織が何で有るべきかの明確な提案は出ていない。北京でのGDE会議では提案されると思われる。現GDE内ではBarryの強いリーダーシップを持っており、ILCSCは相対的に弱い。

(Q:黒川):真ん中に置かれるDRには電子と陽電子用の2つのリングが一つのリングに設置されるがRF stationなどの設備の場所は十分に確保されているのか。
(A:横谷):RF設備はリングの2カ所に置かれるが、大きさ等考慮されている。2つのリングを左右に置くのか、上下にするのかまだ決まっていないと思われる。
(C:生出):安定性を考えれば左右が有利である。

2. ILCSC報告

黒川委員(ILCSC委員長)から、ILCSCの報告があった。
前回の推進委員会後、7月30日モスクワ、11月11日バレンシアで開催された。今後、2007年1月12日DaresburyでMAC後に、2月8日北京で、4月にはBNLでMAC後に開催される。また、5月末か6月にはDESYで開催される。

モスクワではILCSCの権能(Mandate)修正の議論があった。それはICFAで承認された。(修正内容:15. The mandate of the ILCSC shall be reviewed by ICFA every three years to determine if the purpose is being properly served and remains appropriate or if the activity should be terminated.)ILCSCもRDRコストのreviewをコスト評価方法を中心に行うことになった。2003年に行われたILCパラメータ委員会の結論の見直しを同じ作業グループ(議長 R.Heuer)を立ち上げて行うことを決めた。ILCSCでRDR後のTDRに向けての組織についての議論を開始することを黒川氏(ILCSC委員長)が提案した。黒川私案を次回の委員会に提案することになった。新たにCHEP, KNU, IN2P3のGDE-MOUへの参加が承認された。

バレンシアでは9月20-22日KEKで開催された第2回MACの報告があり、Mike Harrison委員がAmerican regional GDE directorに2007年1月から就任することに伴い、Don HartillがMAC委員になることが承認された。また、MACのメンバーを一人追加することになり、吉岡氏が選ばれた。GDEの任務の中にTDRのことが含まれていないことなど、RDR後の組織についての議論の必要性を再確認した。また、GDEに対して、RDRからTDR過程へ移るプランの作成を要請し、次回北京での委員会でその提案を審議することとなった。ILCSCとして、RDRの吟味評価に数ヶ月かかると判断している。GDEから2007-9の3年間のcommon fundの説明があった。1月10-12日に開かれる次回MACの任務を決めた。このMACではILCコストが初めて『開示』されるため、MAC直後にILCSCをDaresburyで開催することにした。北京での委員会のアジェンダの議論を行った。

11月20日つくば市EPOCALで開催されたFALCで、RDRコストの国際的評価(review)の必要性が合意され、ILCSCにそれを組織することを要請した。ILCSCは各regionより2名と適当な2から3名を選び、FALCはさらに各regionより2名のreview委員を選ぶことになるであろう。5月か6月に委員会を開催したい。

(Q:横谷):RDR以後の組織についてGDEよりの提案を待つのではなく、ILCSCが提案すべきある。
(A:黒川):ILCSC内でその議論はすでに行われており、私も私案を出している。また、委員であるWagnerも(直接にILCSCへではないが)私案を出している。
(Q: 横谷):ILCSCがILCコストについて聴聞したあとでないとコストデータを開示すべきでないとの議論があることを訊いた。そうすると、Beijing のGDE会合では一般GDEメンバーほかはコストの話を聞けなくなる可能性が生じ、懸念している。
(A:黒川): ILCSCが1月12日に開かれ、そこで、コストを聞くことになる。したがって、BeijingのGDE会合でコスト数値を出せる。

3. FALC報告

山内委員から、以下の報告があった。
5月22日ローマで開催し、斉藤氏(当時、文科省量研室長)、野崎氏(FALC Subgroup member )、黒川氏(ILCSC委員長)、山内の4人が日本から出席した。それに先立って5月19日にFALC governanceに関するsub group会議があり、野崎氏が出席した。FALCのLCはこれまでLinear Collierであったが、LHC, CLIC, ニュートリノ施設などの国際的な大規模加速器を含めたLarge Collidersとすることが議長より提案され承認された。US-DOEはこのようなFALCの拡大によりILC建設が困難になるのではないかの表明を行った。日本側はそれにより大風呂敷になってしまわないように十分な注意の必要性を表明した。ILCコスト評価については次回議論することとなった。

11月20日つくば市EPOCALで開催され、木村氏(文科省量研室長)、野崎氏、黒川氏、山内、そして加藤氏(KEK管理局長)がオブザーバーとして出席した。ここで、鈴木機構長がKEKとILCの関係に関するimpressiveなtalkをされた。以下の2項目が主に議論された。(1)FALC governanceについて;FALCは周りから注目されているため、何をする所で何をしない所なのかを明確にしなければならない。DOEとしては、アメリカ等の政府に対してしっかりと説明出来る組織となってほしい。日本側としては、あくまでも非公式な意見交換の場であるべきと考えるとの表明がなされた。この議論は電子メール等で続いている。1月22日ロンドン開催の次回FALCで明確にしたい。(2)GDEによるRDRコスト評価をどう扱うか。妥当性の評価がそのまま予算承認のように解釈されないように、慎重に評価しなければならない。ILCSCの下にreview委員会を置き、FALCへ報告すること、そして、委員の構成は各regionより2名とILCSC選出の数名とすることを提案した。このほか、議長より、LHCの実験結果によって測定器が変わるのではないかとの意見があった。また、Large collidersからのspin-off(波及効果)を2007年11月を目処にまとめることとなった。その調整役の一人に山内がなった。7月にもFALCを開催する予定である。

(Q:峠):FALC missionが現在明確でない、という表現は適切を欠くように思う。FALC発足の時点で、『ILCのためのinformal 意見交換する場』との申し合わせがあり、その了解ものとで文科省まわりからの出席参加が了承されたはず、と記憶する。
(A:山内):個人的には同じように感じるが、明文化された文書はない。
(Q:峠):あるはず。
(A:山内):ない。あったとしても3年後に見直すのは当然だ。
(Q:峠):見直しをすることじたいに反対しているわけではない。当初の了解事項、今次なにを踏まえて何を変更するのか、内外ともに筋を通すべきだ、と言っている。過去資料については、国際企画にあるはず。
(Q:横谷):cost reviewのFALC側の委員は誰か。
(A:山内):韓国、インド、日本から1月までに選ぶことになっている。
(Q:横谷):サイトを選ぶ手続きの議論はあるか。
(A:山内):ない。

4. 機構長報告

鈴木機構長から、以下の報告があった。
7月30日モスクワで開催されたICFA委員会で、LCだけのglobalizationだけでよいのかの議論があった。私は、ICFAの中で、他のプロジェクトのglobalizationを担当することとなった。

その他、言いたいことは、RDR後組織に関する議論で、先ず、表明したい。

5. ワーキンググループ報告(1):ATF/ATF2の状況

照沼氏から、以下の報告があった。
ATF,ATF2の開発研究でのハイライトを紹介する。先ず、ATFでは電子ビーム取り出しのための速いキッカーパルスの立ち上がり時間を3nsから2,2nsに改善が行われた(KEK,SLAC,LLNL)。このキッカーはILCのDR取り出しキッカーのプロトタイプでり、ATF2でILCのバンチ間隔を持つ30~60バンチのビームの実現への繋がるものである。読み出しエレクトロニクスをSLAC製のデジタル回路に置き換えることにより、DRのBPM(Beam Position Monitor)で1μm以下の位置分解能を達成し、現在の4pmのエミッタンスを1pmに使用とする試みが行われている。ATF取り出しビームラインでは1umのビームサイズの測定を目指してレーザーワイヤーR&Dが行われている。現在、15-20umの『ビームサイズ』の測定結果が得られている(イギリスのRHUL)。ILC衝突点での高速フィードバックFONT4のR&Dがオックスフォード大学グループにより行われている。FONT4はデジタル回路による100ns以下の高速フィードバックシステムである。12月に150ns間隔の3バンチでのビームテストが行われ、2と3番目のバンチが蹴られているのを実証した。また、 KEKグループとSLAC/LLNLグループにより、それぞれ3個の空洞型BPMよりなるtripletシステムで、ともに17nmの位置分解能を達成した。特にKEKのtripletシステムではそれぞれのBPMはピエゾ素子を用いた微細なムーバーで20nmの常時垂直振動を5nm以下に安定化することができた。

取り出しビームラインを50mほど延長するATF2は、ILC最終収束システムと同じ局所色収差補正の光学システムによって電子ビームサイズ37nmの収束し、その収束点の軌道位置をナノメータレベルで安定化することを目的としている。ビームラインの設計は6月に完成した。取り出しビームライン延長線上にあるKEKBのクラブキャビティー施設は移動することになり、2007年5月までにはATF2ビームラインの設置される床工事が始められる。現状のATF取り出しビームラインを最終収束システムに最適化するように配置換えすることが決まり、予算、マンパワー、そして日程上の調整の結果、当初のATF2運転開始時期(beam commissioning time)を2008年2月から10月に変更することになった。それまで、ATFは運転し現行のR&Dが継続される。それと平行してATF2ビームラインの建設が行われる。ATF2建設の進捗状況は以下のようである。4極電磁石29台が2006-2007年に中国のIHEPで製作されている。この内24台がKEKに届き磁場測定等が行われた。電磁石電源システムについて、KEKとSLACでプロトタイプが製作され、性能や維持管理能力などが評価され、SLACのHA(High Availability)システムが採用されることになった。SLACのHAプロトタイプはそれぞれ50Aを供給可能な5台の電源モジュールからなり、200Aを供給するものである。したがって、5台の内1台が故障しても残りの4台で200Aを供給し続けるものである。このHA-PSシステムは2006-2007年中に製作される。位置分解能100nmの空洞型BPM30台も2006-2007年に韓国のPALで製作されている。この内11台がKEKに届いている。この空洞型の読み出しエレクトロニクスシステムはSLACで設計・製作されている。最終収束点に設置されるナノメートル分解能を目指しているIPBPMも開発研究が行われ、そのプロトタイプ2台がビームテスト中である

(Q:生出):レーザーワイヤーのビームテスト結果のビームサイズ分布で非対称なテールは何か。
(A:照沼 ):この分布はレーザーの太さで決まっているので、レーザーのいろいろの調整で変わってしまう。電子ビームの大きさはこの結果の数分の1以下である。
(Q:高崎):ATF2ビームラインで曲がっているのはなぜか。
(A:浦川 ):色収差補正など光学システム上必要なものである。
(Q:生出):HA電源システムで、1台が故障したとき電流が少しでも落ちたとき、re-standardizationが必要になるのではないか。
(Q:照沼):HA電源システムの趣旨は、故障の際に何時間もかけて人が電源修理するのではなく、電源室において迅速に不良ユニットを切替えられることである。re-standardizationが必要であったとしても、代替電源の搬入に伴うダウンタイムからは解放される。
(補足:田内):SLACでのHAプロトタイプの性能試験の結果、re-standardizationの必要がないことが示されている。電源モジュール1台を落としたとき電流出力は200msecで回復した。そのとき、出力にはオーバーシュートがないため、re-standardizationは必要ない。また、ホール素子による磁場の復帰も測定されている。
(Q:神谷):HAは大量の電源を有するシステムで意味あるかもしれないが、ATF2ではどれほど有効なのか?
(A:照沼):主眼はILCむけの電源システムの先行運転調査にあり、ATF2の運転時間効率に資すること、またILCでの運転時間効率の評価につかえるデータを得ることなどは、あまり強くは期待しない。
(Q:神谷):KEKとSLAC/LLNLの空洞型BPMのトリプレットシステムで、ともに17nmの位置分解能を出しているが、偶然の一致か、それとも何か原因があるのか。
(A:早野):ATFでの床振動が関係しているかもしれない。

6. ワーキンググループ報告(2):ILC SC-RFの状況

早野委員から、以下の報告があった。
超伝導RFのR&Dに関して、KEKでは、STF ( Superconducting RF Test Facility)の建設、高勾配の空洞(LLタイプ)と溶接箇所のないシームレス空洞の開発の3つのものが平行して行われている。STFは旧陽子棟で建設されている。STFではPhase-1(2005-2007)とPhase-2(2007-2009)の2段階での建設・R&Dが行われる。Phase-1は空洞の準備状況によって、さらに、Phase-0.5,1.0,1.5の3段階に分かれている。Phase-0.5では2007年3月までに2つのshort cryostatにそれぞれ1台の空洞(TESLA様とLLタイプ, 9セル)の組み込みと冷却性能試験が行われる。Phase-1.0では、2007年9月までにそれぞれのcryostatに4台の空洞が組み込まれ、DESYとは違った方法のcryo-moduleのassembly試験が行われる。Phase-1.5では、2008年4月までに4台の空洞が性能向上したものと交換される予定となっている。 Phase-2はILCの主リニアックの一つのRFユニットの性能試験を行う。これらのR&Dの中で、S0/S1タスクフォースの課題もこなしていく。

TESLA様タイプ空洞は、TESLAタイプと比べて端板が強化され、tuner(slide jack式)、input couplerも独自設計されている。これまで4台製作し、この中から20MV/m運転可能な1台(No.3)をPhase-0.5で組み込む。この加速空洞は真ん中5つ目のセルの性能で上限が決まっている。LL(Low Loss)タイプのいわゆるIchiro空洞は製作した4台の内1台(No.1) をPhase-0.5に組み込む。この1台は4回のEP処理が施され19MV/mで運転可能である。(これら2台の組み込みは2006年12月末までに完了する。) クライストロンとモジュレータよりなる5MWのRF源は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)の印加電圧保護設定のため、2MWの出力が得られている。

高勾配の単セル空洞(LLタイプ)は6台製作され、超純水高圧洗浄、EP(Electro-Polishing, 電解研磨)などの表面処理方法がいろいろ試され、44MV/m以上の加速勾配が得られた。この過程で処理方法の一つのレシピが決まり、それによって再処理した結果、34~46MV/mの加速勾配が得られた。

STFのインフラの部分の準備状況として、クリーンルームが完成し、超純水高圧洗浄も運転を開始している。EP設備は設計が終わり建設中である。2007年5月には稼働試験が行われ、9月から本格的に運転を行うことが出来る。2007年の予定をまとめると、 Phase-0,5の冷却試験は3月より開始し月に一回程度試験が行われ、5月には空洞はcryostatより取り出さされる。夏に、それぞれ4台組み込まれ、Phase-1に移行する。これと平行して、2007年3月にS0試験用として3台のTESLAタイプ空洞がFNALより届く。4月にもDESYより同タイプ空洞3台届く。これらの空洞は試験後の8, 9月にそれぞれFNALとDESYに送り返される。単バンチビームによる加速試験は 12月に行われる。また、LLタイプ単セル空洞の試験も継続される。夏以降はKEKでさらに10台の空洞を製作し大量生産に向けてのR&Dも行われる。

(Q:黒川):Phase-0.5で組み込まれるLLタイプのNo.1の19MV/mでのQ値は3 x 109程度で基本性能を満たしていないのではないか。
(A:斉藤 ):確かに目標は8 x 109であり、このように低いのはprcessiong 途中のもののためである。
(A:峠 ):GDE Baselineで前提とする空洞性能は、クライオスタット据え付けまえの時点で35MV/mでQ0=8 x 109、クライオスタット据え付け後の運転時に31.5MV/mでは1 x 1010である。LLタイプほかの空洞でさらに高電界が可能になった場合には、クライオスタット据え付けまえ40MV/mでQ0=8 x 109、クライオスタット据え付け後運転時36MV/mでは1 x 1010
(A:横谷):LLタイプで31.5MV/mでは1 x 1010での運転を目指すこともある。
(Q:生出):Phase -1と2の同時進行は方針と違う。Phase-2を遅らせるべきではないか。
(A:横谷):RDB (R&D Board)でも同様な議論があり、検討課題である。
(A:野崎):string testはTDRの前である必要もないのでPhase-2を遅らせることも可能ではないか。
(Q:黒川):S0/S1試験は少数の空洞で行えるもので、各regionごとに3空洞を互いに交換して試験することになっているのか。
(Q:神谷):LLタイプで higher order mode (HOM) coupler 付きのものが低いQ値や低い加速勾配であるが、その原因はなにか。
(A:斉藤 ):HOMカプラの有無とQ値とは特に関係ないと考えている。加速勾配の限界についてはマルチパクタリングを疑っている。

7. WWS報告

山本委員から、以下の報告があった。
WWS ( WorldWide Study of the physics and detector )の物理グループでは、ILC加速器のRDR過程と平行して、MDI ( Machine Detector Interface )、測定器R&D、DCR (Detector Concept Report)、測定器コスト評価の4つの委員会を立ち上げている。ILC-BCDに対応するDOD ( Detector Outline Documents )をSiD, LDC, GLDと4th Conceptの4つの測定器で作成されている。

RDRと対をなすDCRは物理、測定器、そして必要なR&Dとコスト評価が書かれる予定で、2007年2月のIHEPでのACFA-LCワークショップで公開される。測定器R&Dパネル(委員会)は各検出器の開発進捗状況そして必要なR&D項目について検討を行っている。これからの国際ワークショップで以下のように各検出器について検討予定である。IHEPでは中心飛跡検出器、6月DESYではカロリメータ、秋のFNALではバーテックス検出器の検討が行われる。MDIパネル(委員会)はGDEからのメンバーも加え、各ワークショップでGDEとの合同セッションを組織する。また、GDE BDSエリアシステムグループから提出された幾つかのCCRについて検討結果を公開している。2つのIR (Interaction Region)の交叉角度をともに14mrにするCCRを受け入れるが、2mr交叉角の場合のR&Dを継続することを提言している。ビームライン上流のコリメータセクションで生成されるミューオンを遮蔽するミューオン壁の軽減の受け入れには、追加可能な措置が取られていなければならないことを提言した。建設期間内の測定器完成のために必須の地上部での組み立てはそれぞれの測定器で検討の結果受け入れた。CCRとして提出にいたらなかったが、バンチ数の半減によるルミノシティー半減やLow-Pオプションによりルミノシティーの回復は物理の可能性を大きく損なうため受け入れが困難なことを表明した。最も最近に出された『単一BDS/IRとプッシュ・プルにより2つの測定器』のCCRについては、将来測定器が一つのみになる危惧、コスト評価の詳細な情報がGDEと共有されない下での議論は困難で欲求不満であり、GDEがこのCCRを認めるなら、2つのBDS/IRに変更可能な施設を基本設計とし、明確に2BDS/IRをオプションにすることを提言した。また、プッシュ・プルタスクフォースへの新しい課題を課すことも提言した。 (参考:プッシュ・プルに関するMDIパネル提言WWS提言

測定器グループとしては、2007-2008年にCDRを完成し、2008年にIDAG ( International Detector Advisory Group)を組織し、現在は4つの測定器提案を2つにすることを目指す。

(Q:峠):2BDS/IRオプションをAlternative Configurationとして正規に登録するならば、『プッシュ・プル』CCRをWWSとMDIパネルは受け入れる、と理解してよいのか?
(A:山本 ):そういうことになるが、いくつかの付帯事項、提言を踏まえて、のこととなる。

8. RDR以降の動きに関する意見交換

先ず、野崎委員から私案が示された。
RDR以後TDRに向けては実機製造を念頭に工業化のR&Dが重要となる。これらのR&DをWork Package (WP)として、目的と責任体制の明確化を行う。その中で資源配分に責任を持てる組織がWPを分担するものとする。それらWPのスケールは加速器エリアシステムから速いキッカーのR&Dまで幅広くなるかもしれない。これらを調整する(coordinate)組織の司令部が必要となる。司令部はGDE director, EC, RDRMBそしてProject managerが含まれる。資源を有する組織(研究所)がMoUを締結し、それらの組織代表者による理事会(Council)を設立する。理事会は司令部の提案に基づいてWPを決定する。我々の作戦は、最重要課題である空洞、cryo-moduleは3極で平行して進める。同時に、STF, ATF/ATF2, KEKBを活かしたWPを獲得し、文科省方針である『世界トップレベル研究拠点』を目指し、日本に司令部を誘致する。

次に、鈴木機構長から以下の所感が示された。
KEKでのILC-GDEの活動度は非常に高いが、何か足りないものがあると感じている。アジア・日本にILCを誘致する上で、基本戦略がないと思われる。CERNはLHC、DESYはXFEL、KEKはJ-PARCなどの現行プロジェクトを優先しており、ILCSCは各研究所の利害がぶつかり合う政治的な場であり、ILCSCはILC推進母体としては不十分である。また、現在のGDEの組織のすべてがFNALにあるように思える。アジア・日本がリーダーシップを取るには人を増やすしかないと考える。退官された有能な人材を活用させて頂きたいと思っている。

( 横谷 ):(ILCのアジア・日本誘致を)考えているつもりだが? GDEをFNALの置くことがB.Foster, A.Wagnerなどから提案されている。
( 山下 ):戦略がない。戦略を固めて皆がcoherentに動くことが必要との提案ではないか。
( 峠 ):戦略を語るのはたやすいが、真に高次の戦略にはこの委員会で語るべきでない性格のものもあると思う。機構長の言われる「戦略」とはどのレベルのことをお話になっているのか?
( 機構長 ):特にそういうことではない。
( 峠 ):たとえば、R&D部隊が政策的なことを含めた高次戦略を語り始めると、おかしなことになることを危惧する。
( 機構長 ):policy making boardを作りたい。
( 峠 ):EPP2010やCERNの長期計画委員会はあったけれども、今機構長が仰せなのは、そうした委員会を日本でもつくってはどうかetc、といったことを立案する高次のレベルの話のように聞こえる。そういう高次レベルの話は「どこかでやっているけれども、別に誰かが招集するのでなく、しかるべき筋の責任と地位のある人たちがやっている」ということかと思う。policy making board といったような露わな組織をつくって米国や欧州の関係諸氏が動いているわけではない。
( 横谷 ):イメージがつかめない。現場サイドでは対応出来ない。
( 機構長 ): すべての人を含めた組織を作るべきではないのか。アジアの意見をもっと集約すべきでは?
( 横谷 ): 現場レベルではできない。
( 機構長 ): アジアで育てるべきでは。
( 野崎 ): 日本の戦略を下に動くことが必要。
( 峠 ): くりかえしになるが、高次のpolicy makingはもっとexecutiveなlayerですべきであり、委員会を作ってそこでやればよい、というのは誤解を恐れずにいえばある種の勘違いではないか?
( 横谷 ): KEKでのR&Dにアジアからの参加を受け入れている。
( 機構長 ): アジアからの連携をもう少し考えて現場でもやるべきではないのか。
( 田内 ): policy makingにはfunding agencyとの親密な関係を持って決めるべきものでは。
( 浦川 ): 現場レベルでも国際協力の実態などを役人等に説明している。現場では結果を出すことが最優先である。
( 機構長 ): アジアに誘致することを念頭にやってほしい。現場からの日本誘致の熱意がほしい。
( 山本 ): USでの誘致の状況を述べる。BarryはILCのサイトはUS以外ないと言っている。また、Dorfan, Tignerと議論してPolicyを決めている。ここにはDOEは直接関係していない。現場は彼らを信用して動いている。
( 横谷 ): Barryレベルでの話では。
( 峠 ):山本氏の所見に同感。「直接いちいち話しを聞いているわけではないが、トップはトップのやるべきことをやっている」という共同観念が海外の現場チームにはあると思う。アジア日本ではそうした観念が欠けている、というのは逆の意味で共通認識といってよく、その場合、問題の指し示す先は自ずと明らかであろう。トップはやる気があるのか、現場からみるとわからないんだ、ということである。
( 機構長 ): 現場にあるのか?
( 横谷 ): 外国に対して主張してほしい。例えば、Barryは中立ではない。黒川さんもILCSCで中立である必要はない。
( 峠 ): Barryの独走をとめることが必要だ、とするなら、EC内部の議論ではもはやそれが非常に困難なところまできている、というのが横谷報告である。よって、ILCSCでコメントする緊急性は高い。
( 駒宮 ): 現場から機構長へ突き上げる必要がある。両方からの努力が必要。
( 機構長 ): アジアへの誘致への意気込みが感じられない。
( 峠 ): そんなことはない、それがないのにどうして早朝から深夜まで働けるのか。
( 木村 ): やり方は違う。top downからやることもあり、戸塚氏は懇談会を利用した。鈴木さんのやり方を考えたほうがよい、鈴木さんと現場との議論が必要である。
( 栗木 ): GDEの今後を議論すべきであり、司令部を日本に誘致する意思統一が必要。
( 山下 ): 経験の豊富な方々を含めた老壮青で一緒に考える必要がある。OBなど経験者の登用を真剣に御検討頂きたい。
( 駒宮 ): GDE結成直後のGDE-site committee では一旦GDEサイトはVancouverになったが、virtual labということでFNALになってしまった。 virtual labまでは認めた。今回、新しいcommitteeを作るべき。
( 横谷 ): virtualとrealとの差は大きい。realならKEKでは対応出来なかった。
( 機構長 ): 以前には月1回の推進委員会で議論があったが、今、状況がわからない。
( 峠 ): 現在、推進室長と機構長との密な連絡が必要。
( 木村 ): どんどんやり方が変わっている。定期的に議論すべきである。
( 機構長 ): KEK内のことではなく、日本のLCグループ全体の話である。
(    ): 毎週でもpolicy makingの議論をすべきである。
( 山下 ): 現状では推進室は技術開発が主な目的になっている。
( 峠 ): 繰り返す。機構長、推進室長、region director間の密接な連携が必要。現時点でこれが欠けていることを上部構造は認識し、行動を起こすべきだ。
( 田内 ): 全国の大学、研究所機関をまたがったILC建設・誘致のための連絡会議をつくるべきではないのか。
( 浦川 ): 当面のILCSC, GDE などでの戦略が必要ではないのか。
( 佐藤 ): インド、中国にとって、日本に作るメリットがないのでは?機構長や研究所所長間で議論するべき。
( 機構長 ): 優秀な若手研究者の育成に日本でのILC建設が必要との理解がインドにある。
( 横谷 ): インドはアメリカ、ヨーロッパに近い。
( 機構長 ): 現在はアジアの一員である意識が強くなっている。
( 野崎 ): 佐藤氏の意見は悲観的すぎるのでは。 日仏協力のもと、日本に建設すべきとの意見もある。これからは日本とヨーロッパとの協力が大きくなる。
( 黒川 ): 機構長の認識が正しい。アメリカの場合、ILCをアメリカに作るからインドから来いというものだ。
( 横谷 ): アメリカの金でインド人をDESYに送ると聞いている。
( 野崎 ): アメリカより予算は少ないが、日本の施設を利用してもらっている。
( 機構長 ): 欠けているところがある。一団となってやる体制がほしい。
( 栗木 ): GDE meeting前の事前打ち合わせでは技術問題が中心であり、これまで、日本誘致に向けての戦略にもとづいた参加についての共通認識がなかった。この認識をつくるべきでは。
( 機構長 ): 退官された熟練者の活用が必要。
( 木村 ): 現場の熱意が機構長に伝わっていないのでは。
( 野崎 ): 日本誘致という共通認識はないと思う。
( 木村 ): 今回の委員会でもそうだが、報告者の間での共通認識が感じられない。もう少し戦略を整理したらどうか。現在は戦略が必要である。
( 機構長 ): 機構長には任期がある。したがって、中でもっとしっかりとしたものが必要では。
( 山下 ): これまでの素粒子は国立拠点であり、ILCのような国際施設は日本では未経験のことだからこれまで以上の知恵の結集が必要。
( 木村 ): ITERは成功と見る人は多い。当初、ITERの日本誘致には何の見通しもなかったが、ヨーロッパと争える所までなった。
( 機構長 ): 戸塚さんとの引き継ぎのときは、LCは高崎さんに任せたと聞いたが、 人員を決めて定期的に戦略会議を組織したい。
( 木村 ): 黒川さんとの意見交換も必要。
( 横谷 ): ILCSCはBarryにとって目の上のたんこぶではなくなっている。ILCSCは事後承諾するだけとの認識である。
( 峠 ): この横谷さんの発言はEC内での議論の雰囲気をよく伝えているように感ずる。なぜそのようにBarryが動くのか、には米国先方の高次の事情があるからと思うが、それへの対処は当方の高次レベルから行われるべきと考える。この委員会で意見交換するのは結構だが、じっさいの対策を組むのはこの委員会の所在とは違ったところに在る。
( 駒宮 ): 他にない。
( 野崎 ): 数名(機構長、野崎、横谷, 黒川ら)で議論する場をもつ。
( 横谷 ): ECで野崎さんと私の2人だけの発言では(日本の存在感を示すのには)不十分である。
( 野崎 ): ILCSCなどでも共通認識のもとに発言すべき。
( 横谷 ): Project managerの候補者を1月2日までに出せと言われている。これくらのペースで進んでいる。Barryは2月では人員候補者を含めた組織の提案をする。