第21回リニアコライダー計画推進委員会議事要録(案)

日　時： 平成25年6月11日(火）13:00-16:40

場　所： 3号館1階セミナーホール

出席者：赤井、岩下、浦川、榎本、生出、岡田、栗木、小林、駒宮、田内、野尻、早野、藤井、山内、山口、山中、山本(明)、山本(均)、横谷

　　　　　(TV会議出席) 相原、山下、

(欠席者) 川越、清家、田中、峠、徳宿、伴、山田

配布資料：

１．第20回リニアコライダー計画推進委員会議事要録(案)

２．ILC Technical Status Report

３．STFの状況：2013.06.11

４．ATFの状況

５．Physics and Detector Report

６．ILC戦略会議、政産官学連携、AAA等

７．Roadmap Review Report

議　事：

はじめに委員長から、本日の議題、検討事項等について説明があった。

１．挨拶

機構長から、J-PARCでの放射性物質漏えい事故及びILCに関する関係各方面での進捗状況について、以下のとおり報告があった。

J-PARC事故後、研究機関、企業等を訪問したが、JAXAや民間企業では安全管理の破たんは組織の破たんにつながる重大な問題であるとの認識に立っている。安全管理の責任は組織のトップである機構長にあり、組織のトップが先頭に立って取り組むべき事項である、とのアドバイスを受けた。今後は原因の究明、安全対策等に関する複数の委員会等を設置して進めていく予定である。また安全管理は今後も継続して続けていくことが大切で、次の世代にも引き継がれる必要がある。これは東海地区だけではなくつくば地区でも同様である。

ILCに関しては、日米事業に関する政府間協定が4月30日に署名された。また同日にワシントンにおいて日米先端科学技術シンポジウムが開催され、日本側からは河村元文科大臣他政財界から多くの出席者があった。米側からもDOEの長官代行をはじめ多くの関係者が出席した。今後のILCプロジェクトの推進には、第一に日米間で協力関係を構築し、そこから欧州に働きかけるということも考えられる。中心的な国がメンバー国となって条約を締結、ILC立ち上げを開始し、そこからCERNでのnon-member国を増やしていく、というイメージで進めることを考えている。

２．報告

２－１．日本学術会議への取り組み、今後の展開

相原委員から、資料に基づき、報告があった。

日本学術会議のマスタープラン募集とは別に、文科省研究振興局長から日本学術会議会長に対してILCに関する学術的意義、学術研究全体における位置づけ、国民、社会に対する意義、準備状況及び建設・運営に必要な予算、人的資源、についての審議依頼があった。サイト選考プロセスのスケジュールを鑑み7月末までに報告することを求められている。

この要請を受け日本学術会議は、国際リニアコライダー計画に関する検討委員会を設置した。数物系の分野からは相原委員の他、荒川(東大生産研)、家(東大物性研)、岩澤(電通大)、永宮(理研・KEK)がメンバーとなっている。検討委員会ではコミュニティーから駒宮委員が説明をする予定であるが、KEK機構長にもいずれかのタイミングで説明をしてもらう必要があると思われる。

平成24年の科学技術学術審議会のロードマップでは、コミュニティーの合意、計画の妥当性、緊急性等の観点での評価でC評価となっていた。現在は、ヒッグス粒子の発見やTDRの完成等、これまでとは状況が変わってきていることが考慮されるだろう。実際の議論ではILCの予算、運営に責任を持つ組織についても議論になる。

(駒宮)委員会での説明の際、予算等を説明する必要はあるか。

(相原)日本学術会議マスタープランへの申請はKEK機構長が主体者として申請しているので、KEK機構長が予算等は説明すべきであろう。

(小磯)　学術会議の物理学委員会等では、今回の要請に対する議論はされないのか。2012年9月の拡大高エネルギー委員会での前提条件とは状況が変わってきているのではないか。日本学術会議のマスタープランの最後の40課題に素粒子原子核分野から1件しか採択されないと考えると、ニュートリノかILCか、あるいは別の何か、という議論になるのではないか。

(相原)今回の要請に対しては、物理学委員会等で議論はされない。同時に現在進行している日本学術会議のマスタープランについてはすでに物理学委員会での議論は終了している。最終的な40課題が選考される場合、素粒子原子核分野からは2課題が入るのは困難であると思われる。

(田内) ILCは大型国際プロジェクトであり，他の多くのものと大きく違った規模である。そのようなことを背景としてILCの他分野への影響について議論はされているのか。

また、前回の学術審議会でのC評価から今回Aにならなければならないのか。

　(相原)素粒子物理関係は、分野としてはこれまでの実績からも他分野と比較して高い評価を得ている。ただし予算的な議論になると科学技術予算は限られているので、学問的評価とは別の議論があると思われる。どちらもA評価が必要であると思われる。

２－２．LC加速器技術開発進捗H25推進計画

（１）加速器全般

委員長から、資料に基づき、以下のとおり報告があった。

TDRの完成により、技術的にはILCは建設可能な状態になった。現在は、準備段階(Preparation Phase)に入り、LCCのILC Project Leader M. Harrisonの下にTechnical Boardが設けられ、議論を開始している。平成24年12月にまとめられたILC PACの報告書をベースに議論を行っている。

Technical Board での検討内容は以下のとおりである。

- Cavityについては、TESLA type、またはTESLA like typeで対応可能であることが実証されている。

- Positron sourceの回転ターゲットに関して、真空に対して早い回転のターゲットが実現されておらず、実現に向けた議論を行っている。KEKが提案しているalternate sourceについても前向きに議論すべきであるという方向になっている。

- Cavity integration は、S1 Globalで日本、米国、欧州双方の設計で動作の確認がされた。ただし、日米欧間ではコストに開きがあることから、今後これを解消するための技術的な解決の方策を探る。

- Positron source生成に関して、Electron Linacを10Hzの低いエネルギーで運転することでルミノシティーを上げることの可能性について議論を行う。

- 250GeVからのステージングについて、コスト的な部分も含めシナリオを検討する。

今後は、技術詳細設計、工業化技術の準備、加速器・Central Campus・環境設計等の準備、建設に向けた国際準備チームの設立、等を進めていくことになる。

（２）STF

早野委員から、資料に基づき、以下のとおり報告があった。

STF加速器を利用した高輝度X線生成実験（量子ビーム実験）は2013年3月末にビーム運転を終了し、その後ビームを使用しないレーザー共振器のデータ取得を行い、実験そのものは2013年4月19日で完全に終了した。

次の計画であるSTF Phase-2では、ILC型クライオモジュールの組立、設置、試験、ビーム加速を行なっていく。そのクライオモジュールは今までのクライオモジュールの２倍の長さのため、現在の搬入口からは搬入できないので、空洞連結は今までどおり４台ずつ地上部クリーンルームで連結するが、８台への連結と真空容器挿入を局所クリーンルームと新たな挿入治具を用いて地下トンネル内で行う計画である。これと並行して、ILC型の電子ビームをフォトカソード電子銃から出力する試験を行なっていく。このため、STF加速器の運転エネルギーを75MeVから7.5MeVまで下げる変更申請を行っている最中である。また、トンネル下流部の機器取り外しと組立場所確保のための整理も完了した。これから、クライオモジュール組立が開始される予定である。

（３）ATF

照沼准教授から、資料に基づき、以下のとおり報告があった。

ATF2ビームラインでの極小電子ビーム研究開発では、現在までに垂直方向で平均65nm（最小60nm）を確認した。これは1x10⁹ electron/bunchの低電流において実現されており、高い電流ではWake fieldの影響でビームが大きくなってしまっていると推測されている。このため、2013年2月以降のビーム試験では、Reference Cavity BPMやベローズを移動ステージに乗せてビームの反応を調査する、ベローズにシールドを取り付けるなど対応を進めている。併せてSimulationとの比較検討も進めている。

2013年4月にはGDE-EC主催によるATF2 Technical Reviewが行われた。ここでATF2に於ける進捗状況と検討すべき問題点を評価された。

以前よりダンピングリングから取り出されたビームのエミッタンスがリングのものより2〜3倍大きい事が問題であったが、2013年5月に取り出しラインでのカップリング調整方法を変更した結果、ほぼ同程度のエミッタンスを得るまで改善された。

ATF2計画のGoal-2であるナノメートルレベルでのビーム位置安定化の研究開発も並行して進められている。高分解能BPMとその位置調整機能を内蔵する真空チェンバーが完成し、2013年7月にATF2に組み込む予定である。

また、ビームの安定化のためにリニアックのパルス電源や冷却水冷凍機の高度化が夏期停止期間に行われる予定であり、2013年10月からはより安定なbeam研究開発を期待している。

（４）測定器

山本均委員から、資料に基づき、以下のとおり説明があった。

６月１２日にはリニアコライダーの国際組織LCCが本格稼働を始めるが、その物理と測定器の組織はILCとCLICの物理測定器の共同研究を推進するとともに、ILCの実現に向けて現在の測定器概念グループを実際のコラボレーションへと移行させて行く手助けをする。

また、国内では今後５年間の測定器研究開発のプロポーザルが完成し、ILCの物理パンフレットのドラフト版も完成した。

（５）地質、立地調査

宮原特別技術専門職から、地質調査及び立地検討の進捗状況について、以下のとおり報告があった。

国内でのILC建設候補地２箇所（北上地域、脊振地域）についての地質調査の進展状況、並びにILCプロジェクトの立地に関する調査検討結果を取りまとめ中である。昨年度開始した地質調査は、両地域とも全てのフィールド調査を終え、現在解析作業を進めると共に最終報告書の作成中である。

昨年度実施済みのILCプロジェクト立地に関する調査検討業務について、本調査検討においてはILCを核とする国際研究センターの形成条件、中央キャンパスの計画要件、周辺でのイノベーションの創出イメージなどが主要項目であるが、今回は主としてILC国際研究所の人口規模の想定、拠点となる中央キャンパスの配置及び主要施設の構成条件等について現段階での整理を行っている。二つの調査検討は、日本でのILC建設に関する具体的な計画案策定に向けての基本的な指標と位置付けられ、今後の計画立案・技術検討などに際しての活用が期待される。

３．ディスカッション

３－１．LCBからの報告及び国際・国内の情勢、指針

駒宮委員から、以下のとおり報告があった。

2月に開催されたICFA/ILCSCにおいて、ILCSC、GDEからLCB、LCCに体制が引き継がれた。LCBの下にPAC(Project Advisory Committee)が設置され、N. Holtkamp (SLAC)が委員長に就任した。現在Holtkampと駒宮委員とで人選を進めているところである。

4月30日に日米先端科学技術シンポジウムが開催され、日米の各界から多くの参加者があり盛況であった。特に米側はDOEの現在のトップであるポネマン長官代行が出席した。米側からは今回のシンポジウムを最初のステップとしたい、旨の発言があった。

今後のスケジュールとしては、6月12日にアジア・欧・米をつなぐILC Worldwide Event、7月にAPPC(Asia Pacific Physics Conference)及びその期間中にAsia HEP、その後EPS(European Physical Society)、7月下旬から8月上旬には米国でSnowmass会合、11月には東京大学でLCWS、がそれぞれ開催予定である。また、FNAL所長、DESYのResearch Directorがそれぞれ任期を迎え、交代または再任が予想される。

LCBとしては、工学設計の推進、ホスト国・サイトの選定、LCBのサブパネルとして各国の主要研究機関の所長らによりILC Labの形態についての議論、等を進めていく予定である。

３－２．高エネルギー委員会/LC戦略会議からの報告

山下委員から、資料に基づき、以下のとおり報告があっ

Snowmass process用のインプットとして欧州戦略に送った文書をアップデートして送った。日本学術会議大型プロジェクト提案の素案作成、2月に開催されたACFA等での対応、アジアの研究者との連携強化について、それぞれ議論を行った。

立地評価会議のプロセス及び今後の議論についてコミュニティーに説明することとしたが、評価内容は外部には公表しないこととした。

LCC、AAAとの連携としては3月下旬にL. Evansが来日し、総理大臣、文科大臣、科技担当大臣、日本商工会議所等を訪問した。安倍首相からは、ILCは優れたプロジェクトであると認識している、予算が高額のため各国の動向を見ながら検討していく、旨の発言があった。福井文科副大臣の下に文科省にタスクフォースが設置された。また経済同友会諮問委員会でリニアコライダーの議論があり4月2日に意見書が提出された。

4月30日開催の日米先端科学技術シンポジウムには、日米双方の主要な関係者が出席した。またシンポジウム終了後の大使公邸での夕食会には、大統領科学補佐官等が出席した。米側から、米国では議員外交が重要な役割を果たすのでもっと活用するべきである、とのコメントがあった。

社会の理解を得るためのメディア報道について、新聞等への掲載件数は10倍近い頻度で掲載されるようになった。

３－３．KEKロードマップまとめの報告

岡田委員から、資料に基づき、以下のとおり報告があった。

H. Weerts (ANL)が議長を務めるKEKロードマップ外部評価委員会が4月5日、6日に開催され、委員会から以下のコメントがあった。

ロードマップ全体としては、Challenging ではあるがKEKのこれまでの研究活動を見れば十分理解できる内容である。

ILCに関して、現状認識としては研究開発のみならず産業界や政府等への働きかけを行っていることについて強い印象を受けた。5年間のロードマップに対するサイエンスの観点からの評価としては、ILCについてstrong international collaborationの構築を強く推奨する。またKEKはこれらの活動を実施するために予算及び人的資源を十分に措置するべきである。ATF, STFのプランは支持し、ILCについては国際チームの参加により進めるべきである。またILCに限らずKEKの加速器プロジェクト全般で国際的な協力により進めることで、KEKは世界の加速器研究センターになることができる。

３－４．JFY2013の活動に向けた議論、意見交換

(小磯)　平成24年9月開催の拡大高エネルギー委員会での議論では、ILCと他の研究プロジェクトが競合することなく、2者択一的な議論はしない、という結論であったが、日本学術会議での議論は、2者択一のような議論になりつつあると危惧している。改めてILCに対するコミュニティーの意見を聞く場を設ける必要があるのではないか。

(岡田)学術会議での判断について本委員会で議論するのは適切ではない。ILCは従来の学術プロジェクトの枠を超える規模であることから、学術会議では別枠で議論してもらうのが適当と考えている。

(生出)ILCはKEKの規模を超えるプロジェクトであり、KEKとしてはILCとは別にKEKとしてのプロジェクトを探る必要があるのではないか。KEKはJ-PARCや放射光といったそれぞれのコミュニティーに対して実験機会を提供する義務がある。

(委員長)ILCはSuperKEKB後の高エネルギーのプロジェクトとして一つの選択肢と考えるべきではないか。当然他分野、他のプロジェクトを排除する、という方向性で議論してはならない。ILCを日本で実現するためにどうすべきか、現実的な議論が必要であり、それにはKEK、及びKEKの加速器グループの協力は必須である。

(駒宮)KEKとしては学術的に魅力あるプロジェクトが必要であり、Higgs粒子が発見された今こそILCを進める意義がある。

(山下)KEKはKEKロードマップに記載されていることを実施すべきであり、そこにはILCも記載されているのだから、それに従って進めていけばよい。

(小磯)KEKロードマップは人的資源を考慮せずに作成されており、現在のKEKの状況ではすべてのプロジェクトの実施は不可能で取捨選択しないと実施できない状況である。

(岡田)人的資源は重要な問題で、外部資金の獲得等を通じて、人的リソースを手当てする努力を進めている段階である

(田内)文科省から日本学術会議に対しての諮問では、まさにILC建設に必要な予算、人的資源について問われていることから、何らかのデータを示す必要があるのではないか。

※(資料として野村総研による立地調査研究の１つの『ILC中央キャンパスの構想・計画条件の整理 _1.人口規模の想定 _(1)』がある。この表にILC lab.の人的資源の数値がある。これは宮原特別技術専門職が本委員会で発表している。）

(野尻)今できる範囲のことで対応すべきである。不十分なデータを提供すべきではないのではないか。

(山本康史)KEKの将来としては様々な選択肢が想定され、KEKが高エネルギー分野から撤退することも考えられる。SuperKEKBに続くプロジェクトとしてILCがあれば理想的ではある。個人的には、将来ILCに参加するグループとKEKに残ってプロジェクトに従事するグループに分かれるのではないか。

(佐伯)ILCはいわゆるInternational Labとなり、KEKは日本のNational Labとして日本の加速器科学を支える機関となる、というイメージではないか。そういった中で日本は今、国際的な研究所としてILCをホストするという段階に来ている、という共通認識を関係者は持つべきである。

３－５．まとめ

次回は8月23日(金)13時～、次々回は10月30日(水)13時～、開催することとした。

以　上