2012年はILC-TDR完成等一区切りの年となる。Pre-ILCなのかILC Pre laboratoryなのか呼び方が有るが、ILC研究所の準備研究所をどうするかを検討する委員会の設置を、2012年2月2日にオックスフォード大学で開催されるILCSCで提案する。多国籍研究所としての準備を始めたい。 ILCの日本への誘致に関して、国内外での関心が高まっている。その中で、US-DOEやCERNなどから『日本のやる気』の問い合わせがある。
2013年へどう取り組むかについて今年から議論したい。
2. LHCの最新結果を受けて
川越委員から、以下の報告があった。
LHCでのHiggs探索の最新結果を中心に報告する。この内容は、2011年12月13日CERNで開催されたCERN PUBLIC SEMINARでのATLASとCMSグループの発表と、2011年9月10日名古屋大学で開催の将来計画小委員会タウンミーティング『コライダー加速器による高エネルギー物理学の将来展望』で行った講演をもとにしている。
ATLAS,CMSともそれぞれ5nb-1のデータを効率良く取得した。2011年春以来、ルミノシティーの増大とともに事象の重複数(multibunch events)が増え、データ解析が複雑になってきている。上記のセミナーではHiggs探索の結果が更新された。特に、その質量の軽い場合、多数の崩壊過程についての解析が行われた。ATLASでは、W対への崩壊過程は約40%のデータが解析され、質量の140GeV以下の領域でHiggsがないときに比べて余分の事象があった。二つの光子(γγ)への崩壊過程では、質量126GeVに事象のバンプがある。S/Nのよい4レプトン(ZZ*)への崩壊過程はまだまだ統計は少ないが、100GeV以上の質量領域でSMの期待値(Higgs無し)と一致している。これらいろいろの崩壊過程の解析から、ATLASでは、112.7〜115.5GeVと131〜453GeV ( 237〜251GeVは除く)の質量領域が95% Confidence Level (CL)で排除された。CMSでも同様の結果がでている。特に、γγ崩壊で、ATLASは126GeV、CMSは124GeVがのHiggsの候補(ヒント?)が見られる。 超対称性や余剰次元など標準模型を超える新粒子の兆候は見えていない。LHCは今春より重心系エネルギーを8TeVに上げる予定である。また、ルミノシティーも3倍程度高くなると期待されている。
ILCではLHCで発見されたヒッグス粒子を調べ尽くすことが行われる。その最適な重心エネルギーはHiggs質量+120GeV程度、つまり、その質量が上記のヒントのものなら250GeVとなる。ここで、スピン,パリティー, いろいろの崩壊比などHiggsの特性の精密な測定を行うことができ、いろいろの新理論の検証が可能となる。重心系エネルギーが500GeVであれば、ヒッグス自己相互作用そしてトップ湯川結合の測定が可能となる。また、重心系エネルギー350GeVでは、トップクォークの精密測定も可能となる。Higgsなど新粒子を詳しく調べて、次のコライダーエネルギーを決めることもできる。したがって、軽いHiggsがあれば、ILCはHiggsファクトリーとなる。重心系エネルギー1TeV までならILCのアップグレード(第2期)、それ以上ならCLIC 又は Muon Colliderが次期レプトンコライダーとなるであろう。
LHCの結果でILCの指針が決まるが、それが確定するまで待つのではなく、あり得るシナリオに備えてILCの準備をしておくことが必要である。
2011年9月までの加速勾配達成の状況(38台の9セル空洞、2回の試験)を最高勾配の関数として示した(3ページ)。目標は35MV/m以上のイールド率の90%達成であるが、現状では60%となっている。
FLASH@DESYでは、56空洞/7モジュールが運転されている。この中の2モジュール(ACC6、7、8空洞/モジュール)がXFELタイプのRF power distribution を使用している。その16台の空洞の内6台がILCの31.5MV/m以上で運転されている。
アメリカでは40台の空洞の試験(vertical test)が行われている。その中には35MV/m以上のものが16台ある。1つのモジュール(CM-1)の8台の空洞試験で、vertical test(VT), horizontal test (HT)そしてmodule内test (CMT)の結果はそれぞれの平均勾配が30MV/m, 29MV/m (3% down), 24MV/m(20% down)となった。VTとHTはDESYで行われ、CMTはFNALで行われた。
KEKでのS1-Global test ( 2台-FNAL, 2台-DESY, 4台-KEK ) では、全8台の空洞のVTの平均勾配は30MV/mであったが、tuner troubleの1台の空洞を除いた時のCMTの平均は26.2MV/mで、VTに比べて13%の減少である。
これまでKEKでは、STF-1, S1-Global, S0, QB(量子ビーム),STF-2用に、三菱重工業(MHI)の空洞17台が製作・試験されている。これらのVTの勾配は向上し、最近のSTF-2用の2空洞では35MV/m以上となっている。これはインフラの整備が行われ、EPのパラメータの最適化が行われたことによる。また、9セル中の1セルの加速勾配が空洞のものを制限しているので、そのセルの同定と表面処理(local grind)を行うようになった。一般高圧ガス設備対応の超伝導空洞を製作している。
STF-2 : 2台の空洞よりなるcapture モジュールを2012年2月に冷却試験する。8台空洞の#1モジュールを2014年1月の冷却を予定している。その後どのように進めて行くかは議論中であるが、4台空洞のモジュールで試験したいと思っている。
三菱重工業では、コストダウンのためにレーザービーム溶接(LBW)の試験が行われ30MV/m近い加速勾配が得られている。また、シームレス空洞の開発も行われている。日立製作所ではHOMなし空洞で35MV/m以上のものを達成した。HOM有りでEBWによる2番目の空洞を製作中である。そのVTは2012年4月に予定している。東芝ではHOM無しの2番目の空洞が完成し、今月中(2012年1月)にVTを行う。KEKでは、0号機のEBWを外注しているが、その最後の溶接で穴が開き、それを補修後、2012年3月にVTを予定している。また、1号機の製造を準備中である。
今後の展望とまとめは;
加速器の基本パラメータは、A. Blondel and F. Zimmermann, "A High Luminosity e+e- Collider in the LHC tunnel to study the Higgs Boson", arXiv:1112.2518v1[hep-ex], 24 Dec 2011 に従った。 Higgsファクトリーとして、ビームエネルギー120GeV, ルミノシティー 10/nb/s (1034cm-1s-1 )とした。
superTRISTANとして、周長40kmと60kmの二つの場合を考えた。衝突点(IP)でのベータ関数は80/2.5mm (水平/垂直)、加速空洞はILCのものを使用し、10GeVのリニアック を入射器とした。ビーム強度は4 x 1012/bunch、8.6mA/beamである。筑波山の周囲を回るレイアウトを示した。また、消費電力は450MW/40km, 300MW/60km、建設費の概算は、2,590/40km, 3,340/60kmである。
RDR(重心系500GeV ILC)の総予算は6,618MILCで、その中でConventional facility(CF)は2,472MILCである。ILCの全長を50kmとすると、CFは500万円/m、総コストは1,200万円/mとなる。主リニアックは総予算の41%で、クライオモジュールは1/3である。また、空洞(製造,組立、処理、評価)は10%程度である。TESLAの総額は3,136MEuroで、空洞の総額は10%である。したがって、ILCの場合と同程度である。
linacのコストはエネルギーに比例するが、linac以外のコストはエネルギーに依らないと仮定して、RDRコストから重心系エネルギーごとに概算すると、4,672MILC/250GeV, (6,618 MILC/500GeV), 10,514 MILC/1TeVとなる。 STFでのコストを基準とすると、8,894MILC/250GeV, 17,137 MILC/500GeV, 27,397 MILC/1TeVとなる。
空洞やクライオモジュールなどの製作費の1/10など大幅なコストダウンが必要である。 KEKでは空洞製作は最近までMHIの1社だけで行われてきた。コストダウンの方策として、複数メーカーによる競争、『過剰な』仕様を避けること、内作から工業化を先導することなどが取り組まれている。その例として,日立製作所、東芝が空洞製作に加わりそれぞれ1号機を完成させ試験が行われ、35MV/m(HOM無)と8MV/m(HOM無)の結果が得られている。それぞれ2号機の製作も行われ、2012年春までに試験が行われる予定である。MHIでは、stiffener ringやビームパイプのフランジ部の溶接をEBWからLBWに変える等の行程の見直しが行われ、MHI-A空洞で29.5MV/mの加速勾配が得られている。KEKでの内作では、0号機(プレスはKEK,EBWは外部)を製作中でエンドセル溶接補修後2012年1月に完成し、3月にVTの予定である。1号機は内作のEBWの条件出しを行い今年中に完成予定である。これと平行して、EBWを出来るだけ避けるシームレス空洞の開発も行っている。DESYでは30MV/mを達成し、FLASHで運転に使用されている。銅パイプのシームレス空洞への加工はOKであったが、材質がニオブとしたとき破裂(バースト)がEBW部に起こった。真にシームレスパイプでもバーストが起きたが、ニオブのgrainサイズが大きかったためと思われる。現在、数分の1のgrainサイズのものが入荷しその試験を予定している。ILCでのコストの最小値の加速勾配は40MV/m(ILC-ACD, VTで44.4MV/m,90%のイールド率)であり、これを目標とするLL空洞の開発も行われている。単セル空洞ではすでに46.7MV/mが得られている。これまでの9セルで達成された最高勾配は40MV/m(Q0=8E9)である。 他のコンポーネントも高い。例えば、入力カプラーの現在のコストはRDRの空洞コストと同程度であるが1/3程度に下げる必要がある。
Sバンド常伝導加速管(無酸素銅使用で54セル)は、周波数測定と調整、超精密加工、電鋳 などの多くの工程がかかわっているが低コストで量産されている。
2003年のGLC(Xバンド常伝導加速管)のコストの概算額は、4,600億円/500GeV, 3,150億円/300GeVである。
LINACの単価(/m, /MeV)をILC(2007,RDR), (E)XFEL(2007,TDR), TESLA(2001,TDR)とGLC(2003)の場合についてリストした。(E)XFELのものが他のものより約2倍となっている。
結論として、大幅なコストダウンが必須である。
日本の『山岳地帯』でのトンネル設計は、ダブルトンネル(RDR)からサブトンネルとメイントンネル(SB2009)となり、TDRではかまぼこ型シングルトンネルと変更されて行っている。
SB2009の予算総額はRDRのものの約-11%である。RDRの概算額の6,68MILCは2007年のドルを基準にし、その年の為替レートを採用している(1 ILC=1ドル=0.83ユーロ=117円)。TDRでのコスト評価では、最近の激しい為替レートの変動を避けるため、OECDによるPPP(Purchasing Power Parity, 購買力平価)による換算を採用することが提案されている。
main LINACでの内訳を見ると、その3/4 が空洞とクライオモジュールである。
日本の『山岳地帯』でのトンネルは、ダブルトンネル、サブトンネルとメイントンネル、かまぼこ型シングルトンネルとTBMとNATM工法、そして、RFパワー供給システムのRDR, DRFS, KCSを考慮した合計8個の構成で概算が見積もられた。ここでは、工事費の他,工期と機能性も検討された。その結果、NATM工法によるかまぼこ型トンネルが最も経済的に優れていることがわかった。かまぼこ型トンネルでは3.5m厚のコンクリート壁で加速管室とRF室が別れており、運転中でのRF室で作業が行える。
空洞コストについて世界の会社(製造と材料メーカーを含めて全16社)と議論をしている。RDRでは、空洞の製作は1社が行い量産効果でのコストダウンが仮定されている。これら会社とは、複数の会社で製造することも考慮して議論を行っている。また、すでに契約が成立し製造が開始されているEXFELでのコスト(2社で300台づつの空洞製作)も検討の中に入れられている。ただし、ILC コストを単純にEXFEL からエネルギーでスケーリング
する事は無理があるが、同様の技術となるSCRF 空洞について比較検討は意味がある。
さらにコスト評価の精度を上げるために、RI-DESY, AES-FNAL, MHI-KEKにより、空洞を1社で20%, 50%, 100%製作する場合について有償で評価中である。2012年春にその結果が出る予定である。
TDRに向けてコスト削減へのさらなる努力を進めている。このとき、ILC 性能要求を満たした場合に経済性を優先することを前提としている。特に、日本ではかまぼこ型トンネルではRDR-RFシステムも可能となり、それはDRFSに比べて低コストであることがわかった。 年末に関係者間で議論して、これを基本(10MWクライストロン)とすることとする。
また、工業化では、量産における集約型製造と国際協力による製造、試験評価分担の最適条件を探る。多くのコンポーネントのPlug-compatibilityも確かめられている。
現状のSCRFのコスト評価はRDRに比べて2倍程度であるが、総額に対しては10%程度である。これはSB2009の11%の削減以内となる。このようなコストの増加をSB2009での節約の範囲に収まる努力 (Cost Containment Effrort) を続ける。
5. コメント
山本明委員から、以下のコメントがあった。
国際的な情勢をGDE活動に基づき報告する。RDR(2007年)以降のTDR(2012年)に向けて、『性能/コスト』の最適化、特に、ILC性能を維持したまま、シングルトンネルへの移行、ダンピングリング周長の半減、RFパワーの半減などが含まれたSB2009-ILC設計が提案・検討されている。
7. 意見交換