DESYTESLA Collaboration meeting訪問速報(200424日、文責:吉岡)

日程:

1月19日 KEK/DESY(夜は所長主催のディナー)

1月20日 KEK/DESY/US (Cornell, Jlab, Fermilab)

1月21〜23日 TESLA Collaboration meetingDESY@Zeuthen

参加 

(全行程)   吉岡、加古、斉藤、陳、松本

DESYのみ) 土屋、古屋、細山、尾崎(LC研)

TESLA Collaboration Meetingは年3回開催。通常参加者は〜80名、今回は倍の160名。次回のmeetingは4月のITRPDESY来訪に合わせて行う。

 

第一部 概観

 

体制、国際化:

Wagner所長はTESLA Collaboration meeting冒頭の演説で、LCのタイムスケジュールを見せ(2015年コミッショニング、建設期間8年)「実験開始はLHCと同時とは言えないし、物理は詳細スタディである。詳細スタディの物理的価値は二次的なものであるという見方があるがLCの場合は違う・・・精密測定の重要性の一例は宇宙の背景放射分布精密測定である。COBEも重要だったが、WMAPの高精度測定は非常に重要な物理貢献をしたことを思い出して欲しい」と表明した。19、20日のMeetingにも要所で出席し、Zuethenでは3日間、完全に陣頭指揮状態であった。ITRPDESY訪問に関しては総責任者としてDieter Trinesを任命し、対応に全力をあげる構えである。

人材は各年代に分布している。10年ほど前のTESLA Meetingを知る人によれば、当時は参加者がまだ少数に留まっており、一部の人達の会議という雰囲気であったそうであるが、今は異なる。TESLA国内建設の可能性が遠のき、FELのみ建設開始という状況は双方のスペックがやや異なるのでTESLA推進にとってマイナスになり得る。今回のミーティングを見る限り、TESLAFELの協調がむしろ進みハンディを感じさせない。敢えてマイナス面を挙げると「参加研究機関を増やす」ことに比重が偏っており、ダンピングリング等重要で大型のテーマに手が回っていない。

組織はDESY中心であるのはもちろんだが、仏伊英にもタスクフォースのまとめ役など重要な役割を与えている。米国のフェルミ、コーネル、ジェファーソン、MIT(今回から正式メンバー)も巻き込んだ。欧州周辺も巻き込みつつある。世界12カ国54研究機関が参加している。ヨーロッパ(EU)の重点領域科研費(〜5Mユーロ)をとり、より結束を強めようとしている。

年に3回のCollaboration meetingを軸にして推進しているが、この方式は成功している。TESLAは、その正式メンバーでない日本の技術も積極的に取り入れているし(例:斉藤氏)、その意欲は旺盛である。

 

技術発展:

15年前のTESLA~10MV/m時代であった。これをよく~40MV/mの時代を招いたが、ここに斉藤氏開発の電界研磨+120℃ベーキングの手法が決定的役割を果たしたことは特筆に価する。しかしDESYでは既に独自にそのための施設を作り、実績が出始めた。つまり独り歩きができるようになり、この件に関するKEKの役割は終了した。

TESLA研究の発展方向は「低い電界強度をできるだけ高くし」かつ「元々複雑な超伝導システムをできるだけ簡単化する」というストレートなものである。

 

コスト評価:

TDRにあるようTESLAグループは一応、全ての項目について見積もりを行っている。Dieter Trinesが詳細な表を見せてくれたが、細目にわたっている。企業とも情報交換している。しかし、現状出ている数値のなかで、特に空洞とRFカプラーの製造コストは「TESLAの希望コスト」であることは確からしい。他にもモジュレーター、HVケーブルおよび電力分配立体回路に関しては、我々の評価との開きが大きい(ただし、我が方もまだ詰める必要がある)。その他の項目については我々のコスト評価と大きな差は無い。

 

問題点:

今回の議論はほとんどMain LinacRF源に関するもので、TESLAの弱点とされるダンピングリングと陽電子源に関するものは全くと言っていいほどなかった。今回限りかもしれないが、バランスを欠く。

また多くの研究機関を巻き込むため、協調性が前面に出ていた。例えば最弱点の一つ、RFカプラーについてコンディショニング時間を短縮し、コスト削減しなければならないという問題意識をもち、開発のためのタスクフォースが編成され、オルセー(仏)がコーディネーターとなったのはよいが、今のところ方針は平凡なものである。

 

第二部 技術上の問題点(ここでは重要な課題をいくつか取り上げる)

 

電界強度: 

1セクションの試験であるが電界研磨+120℃ベーキングを施した空洞で35~40MV/mに達する空洞がかなりの頻度で出現するようになった。しかも1400℃のアニーリングを施していない。これは原理的には35~40MV/mの電界強度が1400℃のアニーリングなしで実現できるということである。しかし、まだ歩留まりが安定していない。、今後、原理の理解と品質管理が課題となる。

暗電流に関する評価はまだ残された課題である。クライオモジュールの高電界試験は予算がなく計画のみ示された。予算獲得後、1.5年で実現できるということである。

コスト削減のための電子ビーム溶接によらないより安価な製造方法(ハイドロフォーミングなど)の開発も行われているが、主流から外れているという印象であった。我々には現状コスト試算が「希望価格」である以上、コスト削減の切り札として重要であると思われる。

 

 

 

RFカプラー: 

エージング時間(CT: Conditioning Time)が100時間以上要することが大問題であったが、「偶然に」20時間以下のものが出現するようになった(CTが20時間弱〜100時間以上と大きくばらついている)。しかし、材質まで含めた徹底した系統的研究が不足しており、空洞ほどに理解は進んでいない。機械製造した機器の性能に、これほどの大きなばらつきがでることはどこかに品質管理がうまくいっていない部品を含むということである。またCT短縮に150℃のベーキングが有効であることは、原因はかなり「初歩的」なところにあることの査証である。電界強度同様、原理の理解と品質管理が進めば「現実的」になる可能性は大きい。特にセラミックスの基礎開発は重要で、松本氏によれば純度など材質を管理し、メタライズにも最新の注意が必要とのことである。

 

 

 

クライストロンモジュレーターとトンネルスキーム:

フェルミラボが原型を作ったバウンサー型電源は大きなパルスエネルギーを長距離(2.5km)搬送するため保護回路等、複雑になり、かつ信頼性に問題がある。そのことにDESYの担当者も気付いている。2トンネルにすれば電源はSNS方式のように簡単になり、大量のケーブルと、重量6.5 tonの大型パルストランスが不要になり保守性は大きく向上する。

Dieter Trinesによれば、DESYサイトの地質は硬度は高いが、サイトの半分程度は地下水レベル下の砂岩ではあるため、近接した2トンネルを設け、双方を結ぶ導波管孔を設けることは技術上の困難がありできないということである(これが1トンネルに固執する原因か)。仮にわが国の立地を考えた場合、真っ先に考慮すべき課題である。

 

信頼性、稼働率:

長期運転のシナリオとしては、クライオモジュール中で性能劣化した空洞はディチューンすることにより運転から外す。ディチューンするためのモーター駆動のチューナーは簡単な構造で済み、現物を見る限り、その信頼性には大きな問題はなさそうである。一方、ディチューンしなければならないほどの劣化空洞の出現率予測とその対策を考えなくてはならない(今回TESLAの予測を確認できなかった)。ローレンツ力ディチューニング対策のピエゾチューナーはまだ発展途上であるが、これがクリティカルパスになるとは思えなかった(高信頼のものが開発できるであろう)。

10万箇所にのぼるフランジ接合部の信頼性は数が多いので心配したが、実は空洞冷却はヘリウムバスではなくジャケット方式によるので、フランジ接合部は全て真空雰囲気にあり、故障の心配は不要である。一旦冷却したら、加温せずそのままとし、余計なインパクトを与えないということになると思われる。ちなみにJlabはこのような運転を行っている。

Dieter Trinesによれば主リニアックは2.5%のスタンバイを持ち、月例保守(1〜2日間)にて保守する方針である。またWagner所長のコメントは初期においては一気に500GeV運転するわけではないので、エネルギーを上げていく過程で色々対策を考えるということである。これはWARMについても同様であろう。

 

ダンピングリングと陽電子源:

今回、我々も積極的な情報獲得をしなかったことと、前述のようにTESLA Collaboration Meetingでも発表が無かったので、新たな情報は無い。

 

第三部 コスト

 

Wagner所長は「実行段階でコスト試算の20%以上のオーバーランがあれば計画は倒れると覚悟している。」との見解を示した。しかし、「第一部」で述べたように、空洞製造、カプラー製造、クライオモジュール製造組み立ておよびRF源のうちクライストロンを除くモジュレーター、HVケーブル、電力分配立体回路の各項目は、我々の現状コスト評価との開きが大きい。TDR評価は「希望コスト」である面が大きいと推察される。コスト試算発表、特に単価を露に出すことは企業に対してタッチーな面もあり、やむを得ないことではあるがTDRでは「単価」がわからないようにしてある。とは言え、DESYはこれまでに9セル空洞を約100セクション、また8台のクライオモジュールの製造実績がある。この「希望価格」はこれらの製造を担当した企業と情報交換した上のものであることも確かで、十分ではないにせよ、根拠が無いわけではない。

一例としてRF カプラーをあげる。現状価格(単価、10台〜30台発注の場合)とTDR価格を比較すると前者は後者の3~4倍になっている。量産効果(習熟効果)によるコストダウンは最大でも50%程度であろうから、かなりの飛躍があるといわざるを得ない。以下はそのカプラー担当者のステートメントである。

The main RF power coupler is one of the key elements of the accelerating module for the super-conducting linac. There is a strong interest to improve the following items:

-reduce the coupler processing time

-reduce the coupler cost

我々のコスト評価に関する報告は別途報告する。