カロリメータとは何か?
カロリメータの役割
電子と陽電子が正面衝突して素粒子反応がおきると、
多種多数の粒子が生成され、色々な方向に飛び散ります。
これらの粒子について、
- どんな粒子が
- どっちの方向に
- どれだけのエネルギーで
飛んでいったかを測定することにより、どんな素粒子反応が
起きたのかを推定することができます。
1個の測定器でこれら全てを測定することが(今の技術では)
できないため、色々な測定器を組み合わせてこれらの情報を
測定します。
カロリメータとは、このうち粒子のエネルギーを測定するための
測定器です。
電荷をもった粒子については、磁場のなかでどの位曲がるかを
測定することにより、その運動量(ほぼエネルギーに同じ)を
測定する事が出来ます。これはカロリメータでは無く、飛跡検出器
と呼ばれる測定器の仕事です。
これに対して、電荷を持たない粒子のエネルギーは
カロリメータで無くては測定出来ません。
カロリメータの原理
測定器は電磁相互作用でしか信号を検出することが出来ません。
電荷を持たない粒子はそのままでは電磁相互作用をしないため、
一旦電荷を持った粒子に変える必要があります。
カロリメータは、「シャワー」という現象を用いてこの
変換を行ないます。
加えてこの「シャワー」という過程には、高いエネルギーの
粒子が止まるまでの距離を短くする効果があり、測定器の
大きさを小さくするのに役立ちます。
測定すべき粒子として、光子(高いエネルギーの光)を
例にとります。
光子が物質に入射すると、物質を形作る原子の中心に存在する
原子核が作る強い電場によって、電子陽電子対生成という
現象が起きます。これにより、1個の光子が1個の電子と
1個の陽電子、合計2個の粒子になります。
出来た電子(陽電子)はまたも強い電場を受けて、
今度は制動輻射という現象を起こします。
これは電子(陽電子)が光子を1個放出するものです。
これにより、1個づつあった電子と陽電子は
電子陽電子1こづつと2個の光子、合計4個へと増えます。
光子は再び対生成をおこし電子と陽電子になり、
電子と陽電子は再び制動輻射により光子を出し、、、
といった過程を繰り返し、粒子の数がネズミ算的に
増えていきます。
これが「シャワー」と呼ばれるものです。
この過程を繰り返すうちに粒子の数は増えますが、
1個1個の粒子のエネルギーは半分、また半分、
またその半分、といったように、急速に小さくなって
行きます。
ついには対生成が出来ないくらい小さなエネルギーに
なると粒子の数はもはや増えず、
逆に物質に吸収されたり止まってしまったりして、
シャワーは次第に無くなって行きます。
このシャワー中の電子と陽電子は電荷をもっているので、
適当な素子・素材により電気信号を取り出すことができます。
この素子・素材として何を使うかによって色々な種類の
カロリメータがあり、用途によって使い分けられています。
いずれの場合でも、取り出される電気信号の総量は、
カロリメータに入射した粒子(上の例では最初の光子)の
エネルギーに比例するようにデザインします。
電気信号に変換するための素子・素材としては、
シンチレータ、半導体、液化アルゴン・液化キセノンなど、
希ガス・炭化水素ガスないしはそれらの混合ガスなどが
使われます。その変換メカニズムについてはまた
別の機会に。
カロリメータホームページへ
yoshiaki.fujii@kek.jp, 30-May-2003