JLC93-WG6: FF and IR 報告

このワーキンググループは、最終収束系(FF)と衝突点近傍(IR)の諸問題について議論す るグループである。前回のLC92では、今回のIRのグループ参加者の多くはWG8(Experimentation) に属していた。IRの中でリニヤーコライダーでの実験に直接関わること、例えば、測定器の 最適化、バックグランド、光子光子衝突器での実験などは、約半年前にハワイで開催された 第2回LCWS(リニヤーコライダー物理国際会議)で議論されたばかりであった。したがって 開催前にこの約半年間にどんな進展があったのか少し懸念があった。このグル−プの参加者 は約46名で,その内半数はSLACからでJLCグループからは宮本、波戸、生出、横谷、神田( ハワイ大)そして 田内の6名が参加した。ヨーロッパからの参加は8人で、ロシアからは 2人であった。

主に議論されたのは、最終収束系に関して、SLCおよびFFTBの現状と経験、JLC, S-band(DESY), TESLA,CLICのオプティックスのLC92以来の改良点、各地(日本、CERN)の地盤振動測定結果と サポートシステム、ビームコリメーションとミューオンバックグランドであり、衝突点近傍 に関しては、SLDバックグランドの現状と理解、JLC,NLC,TESLAでのバックグランド、バ−テッ クス測定器の最適化、光子光子及び電子電子コライダー、Zポール実験、電子陽電子ペアーに よるナノメータービームサイズの測定、FFTBでの電子レーザー衝突実験などであった。その他 WG5(インスツルメンテ−ション)のグル−プとの間で衝突点でのビームサイズモニターに ついての意見の交換を行った。  

最終収束系

 最終収束系のビーム光学系の設計に関しては、今やどのプロジェクトもそれぞれ収束しつ つあり、LC92以降の大きな進展はみられない。LC92でJLCが提起したより長いl*、大口径の最 終4極レンズなどの方針は今やどのデザインにおいても取り入れられている。

N.Walker(SLAC)は現在進行中のSLCの最終収束系の改造案を報告した。これまでの最終収束系は 色収差補正用の6極磁石と最終収束4極レンズの位相関係がまずく、1micron m以下には残留色収差の ために収束が困難であった。今回の改造では新たに4極レンズが追加され、色収差の補正が完 全になり、500nm程度までの収束が可能になる。更に8極レンズが追加されれば、交差型6極か らくる幾何収差、色幾何収差も補正され、300nmまで収束できる。そこでは最後に残るのは偏 向磁石からのシンクロトロン放射による色収差の乱れであり、現在の配置を変えない限りの収 束の限界に到達する。以上の最終収束系の改造に対し、F. J.Decker(SLAC)は色収差によるビ ームの発散は主として非ガウス型のビーム・テイルをつくるだけなので、ルミノシティの低下 はたいしたことはなく、したがって、最終収束系の改造によるゲインはさほど大きくないと指 摘した。この点は、SLCの場合はさておき、将来のJLCの場合などではより具体的なビーム・エ ネルギー分布などをとりいれて設計されるべき点である。また、Deckerはよりルミノシティを 高めるためのビーム・エネルギー分布をバンチ・コンプレッサーで作り出す方法も報告した。

 光学系の抱える問題の一つはビームのコリメーションである。JLCのコリメータの光学系( JLC-I)は生出により報告されたが、それは6極レンズによる非線形多位相コリメータである。 これに対し、J. Irwin(SLAC)は線形多位相、 R.Brinkmann(DESY)は線形単位相コリメータを 提案した。コリメーションの問題はいまや光学系自身よりもその前提になる入射ビームのテ イル分布である。この点FFTBなどを活用した詳細な測定と発生原因の解明が望まれる。コリ メーションにより発生するミューオンがどの程度衝突点に到達するかについて、波戸による シミュレーションが報告された。それによれば、JLCの場合は長さ300m程度の鉄管でコリメー ション区間のビーム・ダクトを覆えば、ビーム・テイルが1%とすれば、シールド可能である (ミューオンアテネーション法)。また、トンネル断面の形状とその接合部を工夫すれば一 層の効果が期待できる。L. Keller(SLAC) は3m(高さ)x3m(幅)のNLCトンネル内を長さ9.1m にわたり磁化された鉄でビームパイプを除き埋め尽くすミューオンスポイラーの方法を提案 した。1組のミューオンスポイラーの重量は750トンであるが、1ビーム当り約1.5Kmの最終 収束系ビームラインに合計4組置かれる。彼の評価によれば、10^10〜10^11e-/bunch-trainの コリメーションまで許すことができる。彼も認識しているが、この方法は典型的なブルート フォースによるものである。最適な方法は上記の2つの方法の組み合わせで、コリメーター 直後はミューオンアテネーション法を用い、これより擦り抜けてくるミューオンをより小型 のスポイラーで処理するものであろう。

 最終収束系で一般に関心が高いものとしては、振動の問題がある。竹田繁(KEK)等は四国 の佐々連鉱山で約1年間振動および地盤の変動の測定をつづけているが、その結果が報告され た(生出)。彼等は長期にわたる測定の結果では、地盤の1Hz以上の早い振動成分は0.3nm程度、 潮汐を除くATLドリフトの係数は10^-18 m/s程度であり、共にJLCの要求を十分満たす位に静か である。しかし、彼等の同じ装置によるKEKでの測定では、振動の大きさは10倍以上大きく、 注意が必要である。神田(HAWAII)はVENUS測定器で実際に測定された振動のデータをもとに JLCの衝突点測定器複合体の振動解析をおこなった。この結果、振動の変位は大きくても衝突 点の両側が反対方向に動くモードは励起しにくく、1 Hz以上で2nm程度である。これは、KEKの ように特に振動に注意をはらわずに作られた場所でさえJLCの要求を満たしうるという実に希 望のある結果である。

 振動に対する対策として、G.Bowden(SLAC)は慣性4極レンズを提案した。これはまず、最終 4極レンズのなかのビーム・ダクトを低い共振周波数のバネで支持することにより、その共振 周波数以上の外乱にたいしては慣性系になるようにする。そして、そのビーム・ダクトにコイ ルなどを取り付け、4極磁石の振動による磁束の変動を検知する。そしてその磁束の変動を4 極の電源にフィードバックし、ビームの感じる磁場を一定に保つものである。実際にはビーム ・ダクトをこのように支持するのは困難でありまた必要もない。この方法は、結局磁石の振動 を検出してそれをビームに返すことであるから、振動計は通常の加速度計でよいし、またビー ムに戻すのは通常の2極コレクターでよい。

IR問題

SLDのシンクロトロン光のバックグランドの定量的な理解がさらに進み、1%のテールを仮定 するならば、CDCのOccupancy Rateの衝突点でのビームの角度拡がり依存性をシュミレーショ ンで再現できることを示した(M.Hildeth)。SLCのFlat Beam Operationを開始した1993年度の シンクロトロン光のバックグランドはRound Beamの前年度に比べて約1/3であり、ビームの拡 がり(主に垂直方向)に強く依存していることも理解された。また、ミューオンバックグラン ドについても1992年の0.7 mu/eventに対して1993年は0.3 mu/eventと少なかった。バックグランド 制御にとって、ビームの安定性の重要性が改めて強調された。田内は、JLC-IのIRのデザイン についての包括的な報告を行った(JLC-Iグリーンブック参照)。二つのビームの水平交差角 が40mradとJLCに比べて数倍大きいNLCでのバックグランド(シンクロトロン光及びペアー) の評価がG.Punkarによって報告された。この結果はEGS4を使用した詳細なもので、CCDを用い たバ−テックス測定器でのバックグランド許容値の1電子/mm^2/bunch-train(C.Damerell による)を達成するためには、ビームを少なくとも8 sigma(水平方向)にコリメートしなければ ならないことを示した。この場合、半径1cmのビームパイプが可能であると結論した。

今回初めてABEL以外のプログラムによるペアーのシミュレーションの結果が、TESLAに対して D.Schulte(DESY)によりなされた。MACPARとTRACKITNの2つのプログラムによるもので、 ABELとよい一致を示した。C.DamerellはSLDの豊富な経験と上記のバックグランド評価を基に バ−テックス測定器の概念設計を行った。すべての2次、3次バーテックスの位置を精度よ く測定する次世代(21世紀)のものとして、最小半径が少なくとも1cmであること、主にペ アーバックグランドを許容値以下にするために、現在の『標準値』の2倍の4テスラのソレ ノイド磁場の必要性が強調された。

光子光子コライダーに関する2つの発表が、ロシア人によってなされた。V.Telnovはハワイ のLCWSに引き続き包括的なレビューを行い、NLC, JLC, S-band(DESY), VLEPP, TESLAなどのマシーンパラメーターでの究極的なルミノシティーの評価を行った。電子ビーム を光子ビームに変換した後、2つの電子ビームの衝突を避けるために、通常3テスラのダイ ポール磁場が衝突点の回り1cmほどの領域に必要と言われているが、これが本当に必要なの か種々のバックグランド(『望まない』電子電子や電子光子衝突も含む)を考慮して再検討 し、できれば不必要にすることが指摘された。この場合、V.Telnovによると電子を衝突点よ り2sigma_zで光子に変換すると、電子陽電子衝突のものを越えるルミノシティが得られる可能性 がある。光子光子コライダー専用マシーンとして、VLEPPに基く100GeV x 100GeVのPhoton Linear Collider (PLC)の提案が、A.Seryによりなされた。これの概略は、Balakinがプレナ リーセッションのVLEPPのステイタスレポートの中でも触れた。高ルミノシティ(5x10^35 cm^-2 sec^-1)と中間ルミノシティ(4.5x10^32 cm^-2 sec^-1)の2つのデザインよりなる。共にSLAC の敷地に収まる全長3.4Kmであり、前者は、Cバンドの加速器を使用し、バンチ当り4x10^11の 電子ビームを900Hzで120GeVまで加速するもので、衝突点より0.5mmで光子に変換する。

この時、前述のダイポール磁場は不必要で、Dy=7282という凄まじいディスラプションにより 2つの電子ビームは衝突しない。ただし,バンチ衝突当り約100のミニジェット(p*=3.2GeV by T.Barklow)を覚悟しなければならない。後者は、電子ビーム強度が前者に比べてほぼ一桁低 く、ダンピングリングが必要ないことを特徴としている。現在、ビームビーム効果の詳細な シミュレーションは終わり、光子変換用のレーザー光を作り出すFEL増幅器のためのテストフ ァシリティー(全長100m)をINPに建設しようとしている。目指す物理は当然SUSY-ヒッグス 粒子探索であり、質量200GeVのものまで捕えることができる。この質量領域はSUSY-ヒッグス 粒子の全領域を覆い尽くすため、もしヒッグス粒子が見つからなっかたらSUSY理論をほぼ否 定することになる。SUSY-ヒッグス粒子探索に関して、100GeV x 100GeV-PLC は150GeV x 150GeVの e+e-コライダーと同等であるが、その大きさ(長さ)のコンパクトなこと、 単バンチ加速の有利性, コストパフォーマンスなど、その早期実現性で、e+e-コライダーを 上まる可能性がある。この点でひじょうに興味ある注目される提案である。光子光子コライ ダーのための国際研究会が、A.Sesslerにより来年(1994年)3月28日〜31日にLBLで 開催される。

電子電子コライダーの衝突点への要求についてC.Heuschがまとめた。その物理のユニーク性 などハワイLCWSで議論され、十分な物理動機はある。e+e-コライダーとの最大の違いは、 衝突時同じ電荷のビームの強いデフォーカス力でより大きなディスラプション(角度)を受 けることである。したがって、この大きなディスラプションを考慮したIRのデザインが必要 となる。例えば、衝突後のビームを効率よく引き出すために大角度のビーム交差角(数10ラ ジアン以上)が不可欠となり、また、ディスラプションの抑制が是非必要となるかも知れな い。後者について、P.Chenが電子ビームの電荷をプラズマで中和し抑制しようというプラズ マレンズ応用の提案と、それに伴う電子・プラズマ反応から予想されるハドロンバックグラ ンドの評価を行った。彼によれば、実際にディスラプションの抑制が得られ、バックグラン ドも許容できそうである。このようにe+e-コライダーとは違った衝突点及び衝突後のビーム ラインへの要求があるため『2衝突点オプション』への動機付けとなっている。

重心系エネルギー500GeVのe+e-コライダーのZoピークでの運転について、R.Settlesはヨー ロッパでの議論を紹介した。LEPのALEPH測定器の例を示しながら、特別なビーム用バイパス 無しで達成可能なルミノシティ2x10^30 cm^-2 sec^-1(J.Irwinの評価)で、標準測定器のキャ リブレーションは約一週間かかり、500GeV運転(10^33 cm^-2 sec^-1)での一年間に相当する。 これ以上のルミノシティーがあれば、キャリブレーションがひじょうな短時間ででき測定器 の性能向上のために有効である。しかしながら、通常、マシーンの運転モードを変更し再び 復元するのに数日かかるため、実際にはあまりメリットがないのではないかということが指 摘された。Zoピークでの物理実験(CP破れやワインバーグ角の超精密測定)の為には、少な くとも10^33 cm^-2 sec^-1のルミノシティが必要で、JLC-Iにバイパスを追加して可能性のある ことは、すでにハワイLCWSで大森が発表している。とにかく、先ず500GeVのe+e-コライダー の実現が第一であることは、共通の認識である。

今迄バックグランドとして厄介ものとして扱われ、いかに抑制するかに精力がさかれていた 電子陽電子ペアーによる衝突点でのビームサイズ測定について、田内とP.Chenが発表した。 この方法はこれまでの考案されているものとは全く違う新しいもので、電子陽電子の衝突時 に実験を行いながらナノメーターのビームサイズが測定可能となるもので、リアルタイムで マシーンの運転にフィードバックをかけることができる。生成された粒子が向かってくるビ ームの作る電磁場によって曲げられる。この電磁場はビームの強度、水平、垂直方向の拡が りの関数であり、したがって、これら曲げられる粒子の分布を測定すれば、原理的に衝突中 のビームサイズを測ることができる。田内とP.Chenの方法では捕える粒子の電荷が反対符号 であり、測定方法が『相補的』であるのが興味をひいた。つまり、前者では向かって来るビ ームと同じ電荷の粒子、したがって反発力を受けるもの、後者では反対電荷のため収束力を 受けるもの、これら粒子のビーム軸に対して垂直な面上の角度分布を測定する。水平方向に フラットなビームの場合、反発を受ける粒子は強く垂直方向に曲げられるが、収束力を受け るものは全く反対に強く水平方向に曲げられる。これらの角度分布は、ビームのアスペクト 比(R =水平方向の拡がり/垂直方向の拡がり)に依存する。できるだけ単色に近いエネルギ ーの粒子の角分布の測定がよりよい精度を与える。この時、測定器のソレノイド磁場はひじ ょうによい運動量分析器として働く。JLC-Iの場合(田内)、ビーム交叉角が8mradと(同じ 電荷の)粒子の曲がり角に比べて小さく、ソレノイド磁場中のヘリックス軌道半径がそのま ま粒子のエネルギーと曲がり角に対応する。具体的には、衝突点より1m離れた所での半径方 向6〜7cm の粒子の方位角分布を測定する。これに対して40mradの大きな交叉角のNLC(P.Chen) の場合、反対電荷の粒子の角度分布が大きなRに対して非常に狭く、その分布を水平方向に デルタ関数とすると、ヘリックス軌道は粒子のエネルギーだけで決まる。この時、あるエネ ルギーに対応する場所に十分狭いスリットを置き、すり抜けた粒子の有限な角度分布から予 想されるエネルギー分布を、ソレノイド磁場の外に置かれるダイポール磁場で測定する。以 上のように、将来のリニアーコライダーでは1回のバンチ衝突でも十分な統計が得られ、 電子・陽電子ペアーのそれぞれの粒子の角度分布の測定により衝突中のビームサイズをリアル タイムで測定できる。また、田内は現存する唯一のリニアーコライダーであるSLCビームに対 しても同様の評価をし、SLCでも十分に測定可能であることを示した。このペアーを用いる ビームサイズ測定の提案は、今回のワークショップの大きなトピックスの一つであった。