第一期JLC計画

JLCワーキンググループ

JLCのための包括的な物理のレビューは、既に国際会議や本誌に幾度か報告 されている。 ここでは、主に最近のLEPでの精密実験から得られた情報にもとずき、 重心系エネルギー300〜500GeVでのe+e−実験がいかに重要で 緊急な課題であるかに論点を絞り、 このエネルギー領域での物理をあらためて整理し、 第一期JLC計画の位置付けを行なう。

はじめに

20世紀の高エネルギー物理学の発展の歴史を振り返ると、本質的な進歩の背後にはい つも対称性というキーワードがあった。それは、物質の究極の構成要素の探求とその間 の相互作用の解明という高エネルギー物理学の目的が、究極のラグランジアンの探求と 等価であり、そのラグランジアンの決定原理が対称性だからである。対称性は、粒子と その間の相互作用を統一し、理論を発散の困難から救ってきた。標準理論の成功は、対 称性(ゲージ原理)が重要な指導原理であることを決定的に証明している。それでは、 我々が探求すべき次の対称性は何なのか? 昨年頃から主にLEPで蓄積されてきた精 密な実験データが、この疑問に対する答えを示唆している。 この観点から現在の実験データを分析すると、 その状況は標準理論前夜と著しく似ている。

標準理論前夜、我々の手元にあったのはフェルミの4点相互作用の理論であった。この 理論は、300GeV近辺でユニタリティーを破ることが知られていた。この困難を回 避するため、ウィークボソンW、Zが導入された。しかし、一般に質量を持ったべクタ ーボソンの理論はくりこみ不能であり、困難は完全には解決されていない。ベクターボ ソン同士の散乱で、再びユニタリティーの破れが確実に予測されるのである。この問題 を解決するために、ゲージ対称性とその自発的破れを骨子とする標準理論が提唱された 。

もちろん、WとZの発見以前には、標準理論は一理論であった。ウィークボソンの発見 および標準理論の検証に焦点を合わせ、新たに加速器および実験計画が本格的に提案さ れたのは、中性カレントの実験とSLACの有名なeD実験が、ワインバーグ角に対し 、誤差の範囲で一致する数値を与えた頃からである。その後、SppS /Tevatron(pp)計画およびTRISTAN/LEP/SLC(e+e−) 計画が遂行され、標準理論に対する確固とした基礎が築き上げ られた。WとZの発見は、4点相互作用の理論におけるユニタリティーの問題を解決し たが、標準理論で最も本質的な役割を果たすヒッグスはいまだ発見されておらず、第2 のユニタリティーの破れの問題は未解決である。

LEP以後ワインバーグ角の精度が著しく向上し、再び次の実験計画に関する重要なヒ ントを与えている。標準理論が予言するのは、色々な実験で決めたワインバーグ角が、 0から1 までの何処かの値に一致することのみである。従って、このワインバーグ角の値を正し く予言する理論は、標準理論を越える理論として、極めて有力であるといえる。標準理 論を越える理論としてGUTがある。GUTは、ゲージ力の統一を可能にするだけでな く、電荷の量子化やアノーマリーの相殺等、標準理論では説明できないことに合理的な 説明を与える。しかし、標準理論を含む最小のGUTであるSU(5)理論は、良く知 られた自然さ(Naturalness) の問題を抱えている。この問題は、さらに新しい対称性(超対称性) を加えることで解決される(SUSYーSU(5))。

驚くべきことは、自然さの問題を解決するために導入された超対称性が、同時に力の統 一の成立に決定的な役割を果たすことである。図 1−1は標準理論のゲージ対称性 SU(3)xSU(2)xU(1) に対応する3つの結合定数α3、α2、α1の測定値から、それらの高エネルギーでの 値を予測したものである。

残念ながら、標準理論だけでは力の大統一は起こらない。 これに対し、超対称性の導入は、図 1−b に示すように、3つの力のみごとな統一に導くのである。この事をもっと定量的に示す ために、逆に大統一を仮定し、そこから導かれるワインバーグ角の予言値を実験値と比 較したのが図−2である。

予言値と実験値の各々の精度を考えると、両者は見事に一致し ている。これが偶然とするならば恐るべき偶然である。

超対称性は、標準理論の中の非ゲージ力であるヒッグス力とゲージ力を統一する。その 結果、ヒッグスの4点結合定数がゲージ結合定数で表され、150GeV以下にヒッグ ス粒子の存在を予言する。このヒッグスが標準理論におけるユニタリティーの問題を解 決するのである。

かつて我々は、標準理論とワインバーグ角の実験値をもとにして、加速器建設および実 験計画を立てた。そして現在、超対称性理論とワインバーグ角および強い相互作用定数 の実験値から、超対称性理論の実験的検証が、第一期JLC計画 (Ecm=300〜500GeV)の最も重要な課題であると考え、 その立案を進めている。 この観点から、次章以降、JLC実験を可能なかぎり早期に開始することがいかに重要 であるかを示す。 また、もし不幸にして上記2つの実験的ヒントが恐るべき偶然に過ぎなかった場 合においても、このエネルギー領域におけるトップクォークおよびWを含む標準理論に 関する精密実験は、それ自身が重要であるばかりでなく、次に進むべきエネルギー領域 を定量的に示すことを強調し、第一期JLC計画の遂行が、我が国の高エネルギー物理 学の発展において、非常に重要な意味を持つことを示したい。

超対称性理論のシナリオ

1)ヒッグス粒子の探索

超対称性の理論では、最低2つのヒッグス2重項が必要である。従って、自発的対称性 の破れの後に5つの自由度が残る。これらがスカラーヒッグスhおよびH、擬スカラー ヒッグスA、そして荷電ヒッグス H+およびH−である。これらのうち、軽いスカラー ヒッグスhは最低次ではMz以下になり、新たに重要になったトップのループ補正を入 れても150GeVを越えない。軽いヒッグスの存在は、超対称性理論の極めて一般的 な帰結であり、ヒッグス多重項を拡張しても変わらない。もちろん標準理論でも、それ がGUTスケールまで適用できるとすると、トリビアリティーの議論から、250Ge V以下にヒッグスが存在しなければならない。そこでJLCの第1の使命は、軽いヒッ グスhを発見することである。そして、それに続く他のヒッグス粒子を探索し、ヒッグ スセクターの構造を明かにすることである。

超対称性理論の予言するヒッグス粒子は、SSC/LHC等のハドロンコライダーで見 つけるのは困難であり、超対称性理論のパラメータ領域によっては不可能であることが 報告されている。 それは、擬スカラーヒッグスや荷電ヒッグスが、直接にはベクターボソン対に結 合しないこと、また重いスカラーヒッグスHの場合でも、パラメータ領域の多くの部分 でベクターボソン対への結合が極めて弱くなるため、最もきれいなシグナルである4レ プトンモードへの分岐比が大きく減少するためである。軽いスカラーヒッグスについて も、2光子モードへの分岐比が小さくなるため、標準理論の場合よりさらに難しくなる 。もし発見されたとしても、その性質の詳細な研究は困難である。

超対称性理論が極めて有力になってきた現在、この最も重要な領域の解明を可能にする ce+e−加速器が是非必要である。 JLCにおける300〜500GeVでの実験は、以下に 示すように、全てのパラメータ領域における軽いスカラーヒッグスの発見と詳細な研究 を可能とする。

i)軽いヒッグス粒子の探索
スカラーヒッグスの探索方法としてまず考えられるのは、主要な崩壊モードであるb −ジェット対終状態を不変質量分布のピークとして捕えることである。 この場合、同時に生 成されるZの崩壊モードによって独立な3つの探索が可能である。図3−a はZがニュートリノ対に崩壊した場合で、積分ルミノシティー4/fbに対応している 。

これは、現在のJLCの設計値では僅か10日である。主要なバックグラウンドであ るZZ反応は、b−クォークをバーテックス検出器で同定することにより十分落 とすことができる。 Zが電子あるいはミュー粒子対に崩壊する場合も明瞭である(図3−b )。分岐比の点から最も有利なのは、Zがクォーク対に崩壊する場合である(図3−c )。この場合はWWもバックグラウンドとなるが、b−クォークの同定に加え、1つの ジェット対の不変質量がZの質量と合うことを要求すると、落とすことができる。上記 3つの場合に対するヒッグス候補の不変質量分布は、1年間で、図c4−a,b,c のようになる。こうなればもはや疑いようがない。

さらにJLCでは、後に示す高性能の測定器により、ヒッグス粒子の詳細な研究が可能 となる。ヒッグス粒子のスピンを測ることも容易である。発見されたヒッグス粒子の質 量を正確に決定するには、Zが電子あるいはミュー粒子対に崩壊するモードを使い、こ れらの運動量を正確に測定して、残りの部分の質量分布を求めればよい(図5)。

もちろんこの場合には、ルミノシティーは若干犠牲にして、ビームエネルギーの幅を小さく する必要がある。10/fbのデータでヒッグスの質量を20MeV の精度で決定し、また、その全崩壊幅を200MeV以下まで押さえることができる。

ii)標準理論をこえるヒッグス粒子の探索
超対称性のシナリオでは、軽いヒッグスhの性質が標準ヒッグスと大きく異なる場合に は、2つのスカラーヒッグスhとHを同時に発見できる。この時点で我々は、標準理論 をこえる確固とした実験的証拠をつかんだことになる。この場合には、図6に示すよう に擬スカラーヒッグスも荷電ヒッグスも比較的軽く、HAやH+H−終状態で発見でき る。探索には、4−ジェットモードを使えばよい((i)のZがジェト対に崩壊する場合 と同様)。

h以外のヒッグス生成のしきい値を越えられなかった場合を考えよう。この場合は、h の生成断面積および崩壊分岐比の、標準理論からのわずかなずれを検出しなくてはなら ない。図7はhZの生成断面積にbークォーク対への分岐比をかけたものを、いくつか のtan(beta) に対してMAの関数として示している。

100/fbの統計で、これら2つのパラメータ に対し、図8に示すような制限が得られる。

2)超対称性粒子の探索

超対称性理論の予言どうり軽いヒッグスが発見され、ヒッグスセクターのノンミニマリ ティ(標準理論からのずれ)が確立されたとしても、この理論を最終的に検証するため には, 超対称性粒子を発見しなければならない。

重心系エネルギー300〜500GeVでのJLCの初期実験では、どの程度の発見が 期待できるのであろうか。自然さの問題を解決するために導入された超対称性であるか ぎり、超対称性粒子はむやみに重くてはいけない。また陽子崩壊の実験や、宇宙論で最 も軽い超対称性粒子(LSP)が宇宙をオーバークローズしないという条件からも、理 論のパラメータに制限がつく。 これらを総合すると、LSPは100〜200GeVであり、チャージーノは3 00GeV以下にある可能性が高い。

ここでは、最も可能性の高いチャージーノ対生成について、もう少し詳しく見てみよう 。500GeVでの断面積を、理論のパラメータ空間におけるコントゥアーとして示し たのが図9である。

図110は、同じパラメータ空間でチャージーノの崩壊モードがどう変化するか を示している。

チャージーノとLSP質量差がW質量を越えると、シグナルはアコプラ ナーW対となる。そうでない場合には今までのチャージーノ探索と同様に、アコプラナ ージェトを探すことになる。いずれの場合でも発見は容易である。

いったんチャージノが発見されれば、後はe+e−実験の独壇場である。着実にエネルギーを 増強して粒子スペクトルの全体を知ることにより、この理論の背後にあるGUT スケールの新しい物理を探ることになる。

軽いヒッグスが無かった場合

軽いヒッグスが無いことを確実に結論できれば、そのこと自体に大きな意味がある。そ れは超対称性およびGUTのシナリオの死を意味するからである。この場合には、強い 相互作用をするヒッグスセクターのシナリオ、あるいは複合粒子のシナリオが有力とな る。ここで重要なことは、W/Zの縦波成分のみが複合粒子(テクニカラー)なのか、 横波成分も複合粒子なのかという問題である。この問題に答えるには、ゲージボソンの 自己相互作用を徹底的に調べる必要がある。図11に500GeV(30/fb)での 、Wボソン対生成から得られる異常結合に対する制限を、SSCからのものと比較する 。

ハドロンコライダーでは異常磁気能率Dkに対する制限が得られないこと、また、 偏極電子ビームが重要な役割を果たすことが特徴的である。ここで得られる制限は LEP−II より1桁以上精度が高く、標準理論から予想される量子補正と同程度のものである。従 って、さらに統計を上げてW対生成を精密に測ると、現在LEPで行なわれているよう に、量子補正を通じて高いエネルギースケールの物理を探ることが可能となる。

これらの精密測定が全て標準理論を支持するものであれば(最悪の場合)、次になすべ きことは標準理論のヒッグスがどこにあるかをはっきりさせることである。この事態は 、現在のLEPの状況と良く似ている。しかし、その精度は格段に向上する。JLCで は、次の章でしめすとうり、トップクォークが実際に生成され、その質量は500MeV 以下の精度で測定されている。一方、W質量(またはワインバーグ角)決定の統計精度は LEP−II と比較して1桁以上向上し、約20cMeVで決まる。 図12にトップ質量の精度とヒッグス質量の関係を示す。

この図からトップ質量の精密測定が 極めて重要であることがわかる。

また、ヒッグス質量に対する制限をヒッグス質量の関 数として表すと、図13が得られる。このデータから次のエネルギーがきまる。

トップククォークの物理

トップクォークの物理は300〜500GeVにおけるJLCに約束されたものである 。ここではトップ質量の測定の問題から始める。測定方法には、しきい値領域のトップ クォーク対生成断面積の測定によるものと、ジェトの不変質量分布によるものとがある 。前者については、重いトップは崩壊幅が大きく、これが赤外カットオフとして作用す るために、しきい値領域全体にわたって断面積を第一原理(QCD)から計算できるこ とが重要な点である。図14−a は、断面積をエネルギースキャンで測定する場合の例である。

1点1/fbで11点の測定を行なう。 そしてトップ質量と強い相互作用の結合定数αsをフリーパラメータと してフィットすると、図14−b のような結果が得られる。αsを知らないとしても、0.5GeV の精度でトップの質量が決まることがわかる。 一方、図15に示したような3ジェトの不変質量分布を使うと、 統計誤差としては100MeV以下の測定が容易に実現できる。

逆にこのトップ質量の制限を付けると、しきい値領域の断面積測定からαsが0.003の精 度で決定できる。αs測定の価値は、GUTスケールの情報を提供するので、むしろ超 対称性の場合の方が大きい。この場合にはトップ質量の精密測定の意義もさ らに大きくなる。トップ質量は湯川結合と直接関係しているので、超対称性粒子やヒッ グス粒子の質量あるいは崩壊幅を計算する際の不可欠のパラメータである。トップの湯 川結合は、しきい値領域のトップ対生成断面積の測定、あるいはトップ対に付随してヒ ッグスが生成される反応を調べることにより測定できる。この際の湯川結合の決定精度 は、いずれも10/fbの統計で20%程度である。

この他にも、トップクォークの超対称性粒子への崩壊の探索、終状態ジェトの角分布解 析によるトップ対の生成および崩壊バーテックスの研究等、豊かな物理がある。特に角 分布解析は、トップの崩壊幅が大きくトップハドロンが生成されないという今までのク ォークになかった全く新しい状況によってのみ可能となる。

測定器

ソレノイド磁場での高性能飛跡検出、漏れのないカロリメトリーおよび高精度バーテッ クス検出を中心に据えた汎用測定器を考える。

このエネルギー領域でのe+e−実験の特長は、すべての物理現象を現在我々の知っている基 本粒子の事象として捕えることができることである。この利点を最大限に生かすために は、分岐比の大きいハドロンジェットによりZおよびWが確実に再構成され、その不変 質量で明瞭に分離できることが重要である。従って、ニュートリノを除く全ての終状態 に現われる粒子を検出する必要がある。さらにZやWの質量分解能を上げるために、中 性粒子はカロリメータの情報を使うとしても、荷電粒子は分解能の良い飛跡検出器の情 報を使う。この場合、エネルギー再構成での重複をさけるためには、飛跡とエネルギー クラスターとの1対1対応が十分にとれることが重要となる。また、t−クォークやヒッ グスの検出のために、b−クォークのバーテックス検出器での同定も極めて重要である。

一方、80〜150GeV のヒッグス粒子の研究を主眼とするので、その性質である狭い崩壊幅を確認できる性能 は測定器設計の重要な指針である。 主に、以上の物理からの要請をガイドラインとして設計したJLC実験の測定器案を図 16に、また、各検出器のパラメータを表1に示す。以下、簡単に各検出器の概略を示 す。

漏れのないカロリメトリーを重視して、超伝導ソレノイドは、ハドロンカロリメータの 外側に設置される。飛跡検出領域での磁場は2テスラである。 中央飛跡検出器は、ミニジェットチェンバーを採用し、半径方向2mの間で100点の 測定を行なう。各点のrーΦ平面での位置分解能は100ミクロンメートル以下で、 1mm以上離れた飛 跡は十分に分離される性能を持つ。飛跡とクラスターの十分な対応をとるため、カロリ メータ前面でのZ方向の位置分解能は2mm以下が要求される。これは、10層のスラ ントレイヤー(3°)によって達成する。

カロリメータは鉛とシンチレータのサンプリング型で、電磁カロリメータとハドロンカ ロリメータを一体のものとした補償型である。衝突点をにらむタワー構造で、プリシャ ワーを検出するためのシリコンパッド(1cmX1cm)を備えている。

衝突点付近は、従来我々が経験してきたものと比べ、全く異なったものとなる(図19 )。

ナノメータのビームを、安定に衝突させるためには、最終収束の四極電磁石がこの 精度で制御されなければならない。この測定器案では、電子側と陽電子側の四極電磁石 を構造的に一体(CFRP製の円筒に固定)のものとすることにより、同位相の振動の 影響をなくす設計を行なっている。その上で、双方の四極電磁石の位置は、レーザー干 渉系で位置の変化を測定しピエゾ素子を使用して位置を戻す制御システムにより、ナノ メータの精度で制御される。

ビーム・ビーム相互作用からのバックグラウンドも、リニアコライダー実験に特有なも のであり、これをおさえるためのマスクシステムが衝突点の近傍に設置される。 バーテックス検出器は半径2.5cmおよび7.5cmの二層に置かれたシリコンCCD で構成される。CCDは二次元の 検出器であり、マイクロストリップに比べて密集したジェット内の粒子の再構成に有利 である。ピクセルサイズは25ミクロンメートルで7.5ミクロンメートルの位置分解能を持つ。 この測定器案は、重心系エネルギー300〜500GeVでのe+e−実験をできるだけ早く開始する という条件のもとで、確立された技術の延長線上で設計したものであるが、現実的であ ると思われる範囲での限界に挑戦する測定器案であり、極めてチャレンジングなもので ある。

まとめ

以上に見てきたように、第一期JLC実験 (Ecm=300〜500GeV)には、超対称性理論の予言する軽いヒッグスの発見 を初めとする多く のまた極めて重要な物理がある。超対称性のシナリオは、現在の精密実験データから予 測される最も可能性の高いシナリオであり、この場合には、JLC計画はハドロンコラ イダー計画と比べ、格段に豊富な物理の成果を産み出す。 第一期計画のもう一つの重要な点は、超対称性のシナリオの成否に係わらず、JLCに おける最初の実験が、次に進むべきエネルギーを定量的に指し示すということである。 この点で、第一期JLC計画は、高エネルギー物理学における戦略課題であるといえる 。

世界の第一線でトリスタン計画を遂行することで、現在我が国では、加速器、実験、理 論の全ての部門に於いて、電子・陽電子衝突実験の新しい分野を切り開く先駆的な計画 を遂行する十分な実力が蓄積されている。欧米がハドロンコライダーを推進している現 在、相補的である以上に十分な発見能力のあるJLCを一刻も早く建設することが、 高エネルギー物理学に携わるものに課せられた使命である。